地域の多様な「はたらき方に出会う」イベントとして、2016年から年に2回実施している「はたらき方マルシェ」。7回目となる今回は「そろそろ その旗あげてみない?」と題し、2019年6月13日(木)調布市グリーンホール小ホールで開催しました。
はじめに、Polaris取締役・野澤恵美より、今回のテーマに込めた想いを伝えました。
野澤:私たちは、自分たちが欲しい暮らし方、はたらき方を作るために、「はたらき方マルシェ」という小さな旗をあげました。最初は来場者も少なく迷いもありましたが、続けることで見えてきたものもあります。そういった今日まで蓄えてきた実感を、色々な方に感じてほしいと、「そろそろ その旗あげてみない?」というテーマを掲げました。今、旗をあげることに迷っている方がいたら、トークセッションや出展者の方との交流を通して、得るものがあればと思います。かえってモヤモヤすることもあるかもしれませんが、モヤモヤしながらチャレンジを繰り返していってほしいなと考えています。
mayu
コンテンツ制作会社プロデューサー、ライター
平日は六本木にあるWebを主としたコンテンツ制作会社に勤務。イベント企画、フリーランスとしてライター業など。とっても手のかかる小学生の2人の娘にいろんな可能性を見せたく、育児と仕事に追われながら、多様な生き方働き方をオンオフ関係なくモヤモヤ悩みながら動きながら日々模索中。
モットーは「とりあえず興味持ったら行ってみる、話してみる、やってみる」。チョコとアイスと漫画を愛する。猫派。人が好き。
薩川良弥(さつかわりょうや)
空き家を“スナックする”会主宰 / 合同会社パッチワークス代表
調布生まれ、調布育ち、調布在住。ファーストキャリアでは会社員としてカフェ、レンタルスタジオ、イベントスペースの運営に携わる。2014年にフリーに転身し、地元調布を拠点に活動を始める。コワーキングスペースのコミュニティマネージャーや、同スペースの会員メンバーと会社を立ち上げ、寝袋に包まって野外で映画鑑賞をするというスタイルが話題となった「ねぶくろシネマ」など、企画からデザインまでを一貫させたコンテンツ製作を行う。また2018年からは個人として調布・深大寺の空き店舗を拠点に、オンラインサロン「空き家を“スナックする”会」を主宰。地域の空き家活用を軸とした取り組みを進めている。
田中東朗(たなかさきろう)
2018年11月 大学の友人2人と共に喫茶室ほんのもりを開業
早稲田大学文化構想学部で哲学・倫理学を学ぶ。在学中に特に影響を受けた本は、ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』、ジョルジュ・バタイユ『宗教の理論』『エロティシズム』、ジェームズ・ギブソン『生態学的知覚システム』、エドワード・リード『経験のための戦い』などで、現在の活動も、大学で学んだこと・考えたことが基盤になっている(ような気がする)。好きな小説家は、町田康、小川洋子、今村夏子、村上春樹、綿矢りさ、高橋源一郎。好きな漫画家は、町田洋、市川春子、石塚真一、浅野いにお、クリハラタカシ、宮崎夏次系。好きな魚はかつお、さんま、ぶり。
トークセッションでは、調布や地域でそれぞれ旗をあげている3名のゲストに、旗をあげたキッカケや、現在までの活動を通じて感じたことについてお聞きしました。「地域で稼ぐ」「失敗の捉え方」「モチベーションの維持」「事業において大事にしていること」など、それぞれの事業について語り合いました。
――みなさん、調布出身・在住ですが、例えば渋谷とか都心でやる選択肢もあったと思います。「調布」を選んだ理由はどんな点でしょうか?
田中:調布を選んだ理由としては、仙川が好きだったということと、芸術系の大学があり、演劇や、音楽をやりながら街に関わっている人たちの、このままじゃ食っていけないかも、けどいいや…みたいな、仙川のちょっとゆるい部分、そして、もともと調布で育ったというのと合わせて、やりやすいかなという風に思ったことが理由ですね。
――mayuさんは、ご主人がハンガリーの方、お子さんも2人いて、会社生活、地域活動、日々の暮らしと、たくさんですよね。地域活動の長所、暮らしとの葛藤など、どんな風に感じていますか?
mayu:子どもに多様性や、多様な生き方を知ってもらいたいので、いろいろ連れ回しているんです。子どもや夫も楽しんでもらえるものをと、進めているので葛藤はないですね。自分も地域の知り合いが増えたり、子どもたちに繋がりができたり…忙しいけれど、「やってよかったな」という思いです。また、会社生活と地域活動の両方があることで、調布で知り合ったデザイナーや制作関係の人に、仕事をお願いできたり、その打合せが家の近くでできたり、そんな良さを感じています。私自身は正社員として働いているので、地域や地方関係の仕事はやりたいことであり、基本プラスでしかないのですが、会社員として通い続けることが少ししんどく感じはじめたので、調布でできたらいいなあという気持ちはあります。
――食える、食えない問題、地域で稼げるの?ということもよく聞かれることだと思いますが、その点についてはどんな風に捉えていますか?
薩川:僕は、新しい価値を作り上げるという意味で地域の働き方を考えていますが、価値を作り上げるフェーズは収入にならないことも多いので、食いぶちはちゃんと別に確保しておくのは絶対重要だと思います。不安になってしまうと動きづらくなるので…。もう一つ、「空き家」の事業については、現在は儲かってもいなければ損もしてない程度なのですが、今は自分が貢献できることで、価値を創っていくという時期だと捉えています。将来的にはビジネスとして回っていくための仕組み化という視点は当然重要ですが、まずは自分たちがいいと思える価値を創っていくほうが、進め方として大切な気がしているので、食いぶちとバランスと取りながら、というイメージでやっています。
――旗をあげる、アイディアを行動に移していく過程で、失敗に対する不安で踏み出せないという方もたくさんいるのでは、と思いますが、怖さや失敗をどんな風に捉えていますか?
薩川:そうですね。止めなければ失敗ってありえない、その次の成功のためでしかないと思っているので、結局マインドセットの問題だと思うんです。またアイディアを思いつくのが苦手でどうしたら?と聞かれることもありますが、根本的には、なにか方法論で解決できるわけではなく、自分の中のワクワクするモノ、コト、人に触れて、その気持ちをちゃんと理解することがやはり重要だと思うので、自分がワクワクすることを探すということが一番重要な気がしています。
mayu:失敗もあると思うんですが、大抵寝て起きたら忘れちゃうので、失敗を忘れるというか、死ななきゃいいくらいのマインドでやっています(笑)夫を養いながらの国際結婚って大変で、結構キツかった25才くらいに比べるとだいぶマシだなあと思えるので、「失敗ってなんだろう?」という気持ちですね。
田中:薩川さんが言っていた「続けていれば失敗は無いだろう」が、今僕も一番いい答えだと思います。続けていくことは失敗にはならないし、成功しようと思ってやっているわけでもない…続けていればいい、それが一番だと思います。
薩川:みなさんと話していて思いました!失敗論をやめたほうがいいですね。成功か失敗かの議論は意味がない。失敗だと思っても、後々自分の人生のめちゃくちゃ大事な種になるかもしれない。失敗するか、成功するかっていう議論を一回やめにして、とにかく小さくやってみることがすごく重要なことだと思います。その積み重ねでしかない。
――失敗でも成功でもなく、続けること、ということですが、やり続けるというモチベーション、どうやって維持しているものなんでしょうか?
田中:「ほんのもり」は、昼間は喫茶室を名乗っていて、200円でコーヒーを飲むことができ、夜は僕が塾を開いている、というスタイルです。モチベーションというと、日が昇ってから暮れるまで結構長く、何かしらのことをしていないと暇なんですね。さらに、それに対してお金をもらわないと食べていけないので、そこは仕方なくやっている面はありますが、僕がやっている塾のスタイルは昔からやりたかったこと、ただ単に楽しいし、嫌になることもないんです。
mayu:興味のあることしかやらない、やれない質なので、モチベーションというより、なるべくやりたいことをやってみようかな、という感じですね。
薩川:僕が調布という地域で活動を続けているのは、コミュニティの中で自分の役割を見つけられたからだと思います。他者に必要とされ、また自分も他者を必要とし、互いにドライブしていくあの感覚。僕は調布にそれを見つけられたので、その結果調布が好きなんですよ。調布の街、ハードとしての調布が好きかというと、まぁそこそこ好きというくらい。もっとソフト面、コミュニティとか友達という関係性に対して愛着があると表現した方がピンとくる。そういう属せるコミュニティが生活の中で何層にも増えてくるともっと幸せを感じられるんじゃないかなと思っています。
――先ほど伺ったモチベーションにも繋がるのですが、もう少し深く、本当に大事にしていること、実現したい、未来に見たい景色などもお聞きしたいと思っています。
田中東朗くんが今回のイベント打ち合わせで、「見えないものとか、見えないことを想像できる子どもがもっと増えないといけないと思う」ということを話していたのが印象的でした。事業に対する想いや、こんな景色がみたいと思っていることをお聞かせください。
田中:本当に大切なものは目に見えない、「星の王子さま」にも出てきましたし、大学のころ勉強していた哲学者ウィトゲンシュタインとか、まあ、その通りだなと思うんですが、それとは反対に、「人生には価値があるんだ」ということを、頑張って言葉にしようとする、行動で何かを作ってみようとする、そんな風にやっていかないといけない、そう思える世界を作っていかないといけないだろうなぁと思っています。
薩川:みんなが、自分のライフスタイルの最適解を見つけにいけるような環境を作りたい。めちゃくちゃ儲けなくてもいいかもしれないし、めちゃくちゃ友達はいらないかもしれない。でも1人じゃやだ。そんな風に、自分の気持ちいいスタンスを見つけていくことができれば、みんなそれぞれ幸せなのかな。幸せのカタチは自由だし、他者と感じる幸せも相対的だと僕はすごく思うので、自分にあった形を見つけられるように、いろいろなものを見たり作ったり、あるいは多様な人と出会ったり、刺激をたくさん受けられるような環境を作ることがこのまちで見たい理想の未来像ですね。
mayu:私も子どものときから生きづらさを感じていて、娘も読み書き障害など、まだあまり知られていない障害があったり…。なにか凸凹だった人たちが、ちょっとでも楽しめる、生きやすさを感じるような景色がみたいと思っています。それは娘のためでもあるし、私のためでもある。そして、同じように生きづらさを感じている人たちのためでもあるかもしれないなとも思っていて、何かできる範囲で動いている状態です。みんな生きやすい世界になればいいなぁと思っています。そこはちょっと真面目に。
最後に、「一番簡単な旗のあげ方は、隣の人に“言ってみる”っていうこと。予想以上に反応が悪かったら止めたほうがいいと思うんですけど、めちゃくちゃいいね!って言ってくれたら、ぜひチャレンジしてみてください」と、薩川さん。最初の一歩は、隣の人に言ってみる、また誰かが掲げた旗にちょっと参加してみる。それが、誰かの掲げた“旗”の始まりになるかも知れません。
今回のマルシェの出展数は21店舗。
手仕事の品々や、美味しそうなフード、フォトスタジオ、困りごとの相談サービスなど、多種多様な「はたらき方」を提案するブースが立ち並び、賑わいを見せていました。
出展者ブースには、パネルが展示されており「はじまり」「転機」「現在」「近い将来」そして「はたらき方について」と、それぞれの“旗”をあげたキッカケを知ることができます。ひとつとして同じものがないご自身の起業から現在のこと、そして将来の展望など、それぞれの「起業」のカタチを感じることができるパネルになっています。
「はたらき方マルシェ」に来場された方は、なにかやってみたい、チャレンジしてみたいと思う方もいれば、どんなはたらき方があるか知りたいという方も多かったことでしょう。Polarisは、これからも、「はたらき方で街をおもしろく!」をテーマに、様々な大きさ、いろんな種類の旗を、みなさんとともに掲げていきたいと思っています。
「はたらき方マルシェ」は年2回、6月と11月に実施しております。
ぜひ次回のご参加もお待ちしております。