【参加レポート】8月3日(木)開催『サステナビリティ』出版記念セミナーに取締役ファウンダー 市川望美が登壇

投稿者:polaris_noro

【参加レポート】8月3日(木)開催『サステナビリティ』出版記念セミナーに取締役ファウンダー 市川望美が登壇

2023年8月3日(木)、シェアードバリュー・コンサルティング合同会社の代表である水上武彦氏の『サステナビリティ』の出版を記念したセミナーが実施され、ゲストスピーカーとして、取締役ファウンダーの市川望美が登壇しました。

自社の事業を通じて、社会課題解決と企業価値向上を両立させようとする戦略コンセプトに「CSV(Creating Shared Value)」と「6つの資本」*1があります。本セミナーは、前半に水上氏によるCSVやサステナビリティ経営の解説、後半にPolarisによる6つの資本について考える事例紹介とワークショップという二部構成で実施されました。

本記事では、水上武彦氏の『サステナビリティ』の出版記念セミナーの様子を一部お届けします。

*16つの資本:IIR(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会、現在はIFRS財団に統合)が2013年に公表した「国際統合報告フレームワーク(The International Framework)にて示され、自社の資本を財務資本と非財務資本5つ(製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)に分類するもの。

自社の企業活動が与えている社会的影響を自覚し、戦略的に対応

「あなたはなぜ働くのか」、「企業はなぜ利益を上げなければならないのか」――。
3人の石工の寓話(ある町にやってきた旅人の問いかけに、3人の石工が答える)からの引用である2つの質問が水上氏から提示され、セミナーは始まりました。

「この100年で人口が増加していて、富の総量は増えたけど、大量に物やエネルギーを消費して物やCO2を廃棄して右肩上がりに企業が成長を続けていくことは今後困難になる。また、企業活動においては各方面で環境問題や人権問題といった負の問題を引き起こしている」とし、「こうした企業活動を変えていくには、次の3つの原則をベースにした、サステナビリティ経営を実践することが望ましい」と語りました。

  • 第1の原則:自社が及ぼしている大きな影響に対して、責任をもって対応する(CSR)
  • 第2の原則:世界の重要な課題に対して貢献する(SDGs、CSV*2
  • 第3の原則:自社に影響を及ぼすイシュー(課題)に戦略的に対応する(ESG*3

水上氏はさらに、サステナビリティ経営を上手に進めていくためのコツとして、サステナビリティの動向をしっかり把握すること、ステークホルダーに対して適切に情報開示すること、一連のサステナビリティ経営を適切にそのマネジメントしていくための組織づくりを挙げました。

*2CSV(Creating Shared Value):共有価値の創造などと訳され、社会課題を自社の事業にすることで、一見相容れない経済価値と社会的価値の創造を並行して行うことで他社との差別化を図り、事業価値や競争力を確立するという考え方。
*3ESG(Environment Social Governance):Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動で、投資・企業経営においても配慮すべきとされている。

“シゴト軸”のコミュニティを軸に、日常の中で自然と身についたスキルを活かすためのサービスを創出

セミナーの後半ではPolarisファウンダーの市川望美が登壇し、Polarisの事業内容と特徴について語りました。

市川望美が語るPolarisの仕事とは

――以下、市川コメント
Polarisは、経営者の5人以外は直接雇用せず、約200名のメンバーが業務委託で働いています。そのうち15~20人ぐらいがPolarisの事業運営に関わっています。

対等でフラットな関係を形成し、コミュニティベース、チームで仕事をすることを大切にしています。現地で行う業務の場合、地域採用をベースにチームを組成しています。互いに異なるバックグラウンドに配慮しながらチームのメンバー同士が支え合い、非常に有機的なチームを形成することで、これまで仕事をしにくかった人が関われるようになりました。仕事でつながることで地域の関係性が変わったり地域に愛着が生まれたり、チームの中で個性を発揮することでチームメンバーにも愛着が生まれたりします。それらを総称して私たちは「“シゴト軸”のコミュニティ」と呼んでいるのです。

Polarisでは、請け負った仕事をみんなでシェアしたり、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと一緒に働く機会や、地域の人が活躍できる場を作ったりしてきました。こうすることで課題として大きくなる前にニーズを察して、サービスを生み出すことができています。基本的には手を挙げた人が業務をする、という流動的な仕事の仕方をしています。

仕事をつくることについても、Polarisの特徴があり、特別なスキルではなくとも、日常生活で自然と得ていたスキルの中に価値を見出し、サービスにしています。例えば、地域住民として子育てや生活の中で獲得していたコミュニケーション能力を一つの価値と捉えて、コミュニティマネージャーという仕事を生み出しています。また、子どもの宿題をサポートするという、母親ならではの能力を活かして、IT企業と組んでプログラミングスクールのオンラインバディを2年間受け持ちました。これらの私たちの働き方が、実はサステナブルな能力を磨くのに役立つのではと思っています。

Polarisの企業価値を創るための「6つの資本」を考える

企業価値向上と社会課題解決を両立するべく活動するPolarisの、どういうところに経営を支える力があるのか――。

次のワークショップでは、参加者の皆さんにPolarisの強みをコメントいただき、本セミナーのファシリテーターを務めている株式会社ソーシャルインパクト・リサーチの熊沢拓氏が「6つの資本」の観点で整理していきました。

「6つの資本」とは、企業が自社の社会課題解決と企業価値向上を両立させていくためのフレームワークで、次の6つに分類されます。

  • 財務資本:現金・預金、借入れ・株式などによる資金など
  • 製造資本:建物、設備、道路といったインフラなど
  • 知的資本:知的財産権、社内のシステムなど
  • 人的資本:従業員の能力、経験、意欲など
  • 社会・関係資本:共有された規範、共通の価値観など
  • 自然資本:空気、水、土地、生物多様性など
ファシリテーターの熊沢氏

参加者の方からはPolarisについて、
「人的資本か社会・関係資本かは分からないが、250人の業務委託の人たちとつながっていることそのものが強みではないか」
「いろんな地域と関わりがあり、250人が全員異なる強みを持っている」
と指摘がありました。

これについて熊沢氏は「いろいろな地域にいる250人とPolarisさんがつながりを持っていることによって、企業としても仕事が頼みやすいのかもしれませんね」と視点を示します。

「非営利型株式会社自体がなかなかないこと、利益を強く求めていないところはなかなか尖っていて強みだと感じた。財務資本にあたるんじゃないか」
という意見には、市川が次のように回答しました。

「非営利型株式会社という名前は、名刺交換をするときも確認されることが多く、Polarisのブランディングに役立ちました。働いているメンバーもミッションを実現することに価値を感じています」

ワークショップにてあぶり出されるPolarisの資本マッピング

熊沢氏からは「Polarisが持つ、いろいろな接点が仕事に結びついていたり、課題解決につながっていたりする印象がある。こういうことを利用して、事業のSX化の伴走支援に繋げられるようなソリューション・仕組みが作れるといいかもしれない」と示唆がある一方、
水上氏からも、「ビジョンと生活者観点を持つ人材と、自治体や企業とのリレーションを保ったり作ったりしていくところだという気がしますね」とPolarisの強みについてお話しいただきました。

これらのお話を受けて、市川からは次のようにPolarisの変化と今後についてお伝えしました。

以前は社会貢献的な視点から「Polarisさんに機会を提供できます」とお話をいただくことが多かったのですが、最近では「Polarisさんと一緒に何かしたい」、「どうやって社員に越境の体験を積んでもらえるだろうか」、「障害児や障害児を子育てしている人をはじめ、いろんな立場の人が働く場所を一緒に作りませんか」といったご相談をいただくことが増えています。切り出した仕事に人を割り当てるだけでは、変身の機会を与えられにくいですし、事業者としてもいきなり「変化の機会づくり」を押し付けられても難しいと思います。コミュニティの中で関わっていくということ自体が、長く働き続けるスキルに変換できますし、何より自分たちにとって安心で、ウェルビーイングも高まるんです。今後そういうのを価値として提供できればと考えています。役職定年を迎えた人たちや早期退職した人たちからも関心を持っていただいてるので、仕事を請け負うこと以外でも何かしらの価値やニーズがありそうだなと思っています。

「サステナビリティ」著者の水上氏(左)

熊沢氏からの次の言葉も、緩やかな組織と個人の結びつきの気づきとなりました。
「退職して終わりではなく、退職後も関係を続けるものに何か使えるような気がします。企業は利益を生み出すものであるという提示がありましたが、一方でコミュニティでもあります。コミュニティとして機能している企業にいろいろな人たちをマッチングさせて、働きたいときは働く、働けないときは働かないという関係の、強弱を織り混ぜる仕組みが企業でできていくと、よりコミュニティが良くなる気がします」

コミュニティはサステナブルなんだけど、企業はサステナブルじゃない

セミナーの終わりに、参加者の方からの感想をいただきましたのでご紹介します。

  • 「やっぱり250人の業務委託を抱えてらっしゃる、普通の会社とはちょっと違う考えのもと違うお金の稼ぎ方をしていること、自治体との関わりの多いのもそういうビジネスモデルならではなのかなっていう気もした」
  • 「暮らすとはたらくを無理に分けなくてもいい、暮らしの中でできることもあるという話が新鮮だった。自分でも何かやってみたい」
  • 「Polarisのように、事業とCSVを結びつけるとかそこを突き詰めて考えるっていうのが非常に大事だなと思った」
  • 「『何のために働くのか、どんな価値をこれから作っていけばいいのか』という疑問が自分に刺さったが、みんなが共通の目標や課題を持って自分ごととして取り組めるようなものはなかなか見つけづらい時代であること、個別具体的なものを作っていけることの難しさを改めてすごく感じた」

水上氏「日本でもいろんな地域で少しずつ取り組みが始まっていますが、具体的にドーナツ経済的な世の中を作っていくためには、やっぱりローカルが大事です」

市川が水上氏からいただいたサイン

熊沢氏「個人が持つ強みが集まって全体の強みになっていく仕組みづくりを含めて、Polarisの事例には企業の方々の学ぶポイントがたくさんあると思います。人的資本、社会・関係資本、知財とかいろんな資本が組み合わさって持続可能な組織になっていくところを、Polarisの事例から皆さんに学んでいただきたかったんです。Polarisの話を聞いて、兆しから上手くビジネスを作っていく変身資本みたいなところが印象に残りました。コミュニティはサステナブルなんだけど、企業はサステナブルじゃないっていうのが中庸としての気づきです」

今後Polarisは、創業時の原点である「社会性」に舵を切りつつ、さまざまな方面とのリレーションやロコワーキングをはじめとした働き方のSX化を進めることで、シゴト軸のコミュニティの価値をさらに深化させていきたいと考えています。