2024年6月6日(木)、DIAGONAL RUN TOKYOにて開催された、東京のオフ会『暮らすと働くのバランスって?』に、非営利型株式会社Polaris取締役ファウンダーの市川望美と取締役の山本弥和が登壇しました。このトークイベントは、「自分らしくいきいきと働くことを目指してさまざまな方と交流し学び合う」ことを目的としており、「Project Mariage(プロジェクトマリアージュ)*」が2021年から年に1回開催しています。
本記事では、東京のオフ会『暮らすと働くのバランスって?』の第二部の様子をレポートします。
*Project Mariage:いままで出会わなかった人と人、コトとコト、人とコトつなげ、かけあわせることで、今ある課題を解決し新しい価値を生み出していくことに取り組んでいるユニット。福岡県福岡市に拠点を置く、一般財団法人ウェルネスサポートLab 、株式会社TAP 、株式会社YOUI の3社によって結成。
日時:2024年6月6日(木) 17:00~19:30
場所:DIAGONAL RUN TOKYO
東京都中央区京橋2丁目13-10 京橋Midビル 4F
ゲスト登壇:
株式会社みんなの銀行代表取締役頭取
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ執行役員 永吉健一氏
株式会社ディー・サイン取締役 今村剛氏
司会:株式会社ディー・サイン取締役 今村剛氏
ゲスト登壇:
Polaris取締役ファウンダー 市川望美
Polaris取締役 山本弥和
第1部で永吉氏と今村氏によって、ProJet Mariageの議論がなされた後、第2部の「誰もが暮らしやすく、働きやすい社会ってなんでしょう?」をテーマにしたトークイベントに移りました。ここでは、株式会社ディー・サイン の今村剛氏を進行役に迎え、取締役ファウンダーの市川と取締役の山本、Project Mariageの皆さん(原口唯氏、笠淑美氏、野口結祐子氏)が登壇。前半はPolarisが向き合ってきた、”心地よく暮らしはたらくこと”について、お話しました。
市川:Polarisは「未来におけるあたりまえのはたらき方をつくる」をミッションに掲げ、2012年に非営利型株式会社として法人化しました。当時は多様で柔軟な働き方をしたいと言ってもあまり理解されず、一部で共感してくれる人がいても、世間の風当たりはまだ強いなと感じていました。一度仕事を離れた子育て中の女性が、”また働きたい”という想いから始まっている組織ですから、特別な人による特別な働き方ではなく、誰もが望めば選べるような働き方にしたかったのです。また、自分一人でやるのではなく、誰かと共にやるということを大事にしました。なぜなら、お互いを受け止め合い、生かされ合う文化・風土が、人や組織に好循環をもたらすことを、私たちは経験上知っているからです。誰かと共にやることを大前提にして、働くことそのものを肯定的に捉えられるようにし、働くことを通して、今の自分にも未来の自分にも希望が持てるようなことを、次世代につないでいきたいと考えていました。
山本:現在、Polarisは13期を終えるところで、事業は大きく5つに分かれています。1つ目は事業伴走支援サービス「CoHana」です。Polaris設立時は「セタガヤ庶務部」として、ちょっとしたバックオフィス業務をチームで請け負っていく仕事を立ち上げましたが、現在は業務サポートを提案・実装できるパートナーとしてチームを形成し、大きな事業の柱として成長しています。
2つ目は、コミュニティ運営事業です。Polarisで立ち上げ期からコミュニティやワークスペースを運営してきた経験を生かし、シェアオフィスやコミュニティスペース事業を行う企業のパートナーに選んでいただいています。
3つ目の地域イノベーション事業では、自主運営のワークスペースやコミュニティスペースを起点に、地域で心地よく暮らしはたらくことを実現しています。Polarisは京王線調布駅から徒歩1分のビルにコワーキングスペースを運営しており、地域の人たちが気兼ねなく集まりつながれる場を提供したり、調布駅周辺の商店会の業務サポートをしたりと、地域で暮らしている人が、もっと自分のまちに愛着を持てるような取り組みを行っています。こうした取り組みの原点は、Polaris立ち上げ期の「くらしのくうき」というサービスです。新しく転居を考えている人へ、そのまちの先輩が、暮らす中で培ってきた”くうき感”を伝えるというもので、マンションデベロッパーのパートナーとして、地域情報を提供してきました。情報発信の当事者である人たちが、子育てで仕事から離れていた期間をキャリアロス・キャリアブランクとせず、暮らしの中で経験してきたことを付加価値として提供する価値創造型事業です。こうした取り組みで、自分たちの暮らす場所と働く場所を緩やかに繋げ、心地よい社会につなげていくのが、地域イノベーションだと考えています。
4つ目は、学び・探索系事業とまとめていますが、実態は分かれています。Polarisでは、「心地よく暮らしはたらく」を掲げて、それが実現できるような働く仕組みや仕事の仕方など、組織づくりに取り組んでいます。その中で、個人に重きをおいて「暮らす」や「はたらく」を捉えていくのが、学び事業です。自分自身の心地よさや働きたい思いを合わせて深めていくために、対話や振り返りをベースとした個人視点の学びの場を、内部にも外部にも提供しています。一方で、探索系は社会の動きを捉えながら、Polarisをプラットフォームにして新たな価値創造を捉えようとしています。どちらも、自ら問いを立て深めていく取り組みで、ソーシャルビジネスを掲げるPolarisにとっては大事な事業としています。最後に、これら全ての事業を受け止め、組織運営を可能にしているのが5つ目のコーポレート事業となっています。
市川:Polarisの最大の魅力は、「多様で柔軟なはたらき方」という言葉に集約されるかもしれません。人と人、あるいは人と組織が関わり合い、呼応し合うことを前提とした働き方を探究できる環境を整えています。在宅しながらチームで働けるコミュニティが地域にあれば、小さい子どもがいる、介護がある、自身に病気があるといった働く上で制約のある人が働く場を地域につくるといった支援的要素を内包し、多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まる場は、より創発的でクリエイティブに変化していきます。
私たちは、ライフステージや個人の事情に合わせて働き方を変えられる柔軟性、自分自身が心地いいと思える、常に自分らしい選択ができることを大切にしています。Polarisが意思決定の軸として大切にしている「心地よさ」は、「〇〇は〇〇すべき」といった、社会的な押しつけとは反対側にあると思っています。例えば、「子どもを持つ人は仕事を辞めなければいけない」というように、他者の価値観の押しつけで選ばされる選択肢は、自分にとってあまり心地のよいものではなかったりします。一人一人が尊重された上で人それぞれの選択を尊重し合える環境であれば、個人の心理的安全性も高まりますし、組織全体のウェルビーイングの向上に繋がると期待しています。個人、組織がそれぞれの心地よさを追求した先に、社会の心地よさが生まれ、社会の暮らしやすさや働きやすさとなるのではないでしょうか。
2024年6月よりProject MariageとPolarisで「心地よく働くためのコミュニティ検証」共同プロジェクトを始動したと、プレスリリースが出ましたが、その背景には、まずProject MariageとPolarisがそれぞれ数多くのコミュニティ運営を行ってきたという共通点があります。さらに、それぞれのコミュニティ運営を客観的に評価しようとした際、コミュニティという変幻自在なものを評価する基準がないために、来場者数などの定量評価しかできていないというのも、共通の課題でした。しかし、実際に現場では、数字だけでは評価できない質的な変化が現れています。それらに対してどんな基準でどう評価していけばいいのか、双方の知見を持ち寄り分析していこうということが、このプロジェクトの趣旨です。
後半は今村氏が引き続き進行役を担い、「心地よく働くためのコミュニティ検証」共同プロジェクトについて、登壇者全員によるパネルディスカッションとなりました。
市川:主婦と呼ばれる人たちが何らかの場の運営をしていると、単なる「女子の気働き」として片付けられてしまうんですね。あるいは「さすがママさんのコミュ力」と言われることもあります。こういうとき、もっと適切な表現ができないものかと思うのです。Project Mariageさんであれば事業内容的に看護師が該当すると思いますが、看護師の持つ専門性も、実際にはもっと別の言葉で表現されるべきものがあると思います。
山本:Polarisには、今本当にいろいろな方がいて、コミュニティスタッフを副業にしている方が男女問わずいます。新しくコミュニティスタッフになった人に、研修でコミュニティに関わる人との関係構築について伝えていますが、関係構築にも作法があり、それをフレームワークとして落とし込んでいる運営側の工夫が、場づくりにおける価値として見えづらいところがあります。コミュニティを整えながら、サードプレイスがあることの必要性や場づくりの評価や指標、コミュニティスタッフと運営側、管理のあり方も明らかにすることで、すべての関係者がコミュニティで健やかに活動できる環境を整えられることを、このプロジェクトに期待しています。
今村さん:個人的にも興味のある研究で、例えば環境性能の評価軸や健康経営の評価軸など、定量的なスコアリングが求められるがゆえに、歪みが多く見られると思います。コミュニティの価値をどう測るか、その効果をどう可視化するかは難易度高い分、実現できたら価値がありますね。評価までは難しいかもしれませんが、実際に言語化できるコミュニティ運営に必要なスキルセットがあったりしますか?
山本:1番最初にスタッフに伝えているのは、コミュニティに関わる人は「フラットで対等である」ということです。こちらから一方的に何かを提供するのではなく、地域の皆さんや参加者と私たちがともに目指すあり方、例えば「こんな石神井にしたい」「こんな調布にしたい」といったビジョンを参加者や地域の皆さんと共有し、対等でフラットな関係を築くことを大事にしています。また、私たちが全て作り込まず、余白をあえて残して、いろんな方を巻き込み、逆に巻き込まれることも価値があると考えています。お互いを後押しし、応援し合い、関わり合うことを基本姿勢としていて、Polarisが運営に関わっているすべての場所で守っています。笠さんたちはいかがですか?
笠さん:私たちはナースとしてコミュニティに関わっていますが、健康に関心がない人って老若男女、ほとんどいらっしゃらないようにお見受けしています。実際、聴診器をつけていると「健康に関して話をしていい相手だな」と認識されて、安心して、日々の不調のお話などをされ、交流のきっかけとなっています。市川さんがお話されたように、この暗黙知化された情報はおそらくたくさんあるのでしょうね。
市川:先ほどコミュニティの価値について話がありましたが、クライアントからコミュニティ運営を受託するとき、それを言語化することが重要だと考えています。例えば、「活気ある場にしたい」「多様な人々が共存する場にしたい」といったクライアントが望むコミュニティ像を事前に共有できていないと、効果的な運営が難しくなることがあります。コミュニティは人と場があればすぐに作り出せるものではないので、長い時間をかけて育てていくための場の手入れが重要です。不安定で予想通りにいかないことも多いため、変化に対応しながら運営していくことが求められます。最初から見えていなくても、クライアントが共に探究していく姿勢だと、一緒にできそうだなと思います。
原口さん:コミュニティマネージャーが何をする役割なのか、という問いを考えたときに、コミュニティが何をしたいのかを明らかにして、それと共に働く人なのかなと思いました。
市川さんの話のように、プロジェクトオーナーに、つくりたいコミュニティは何なのかを問い、明らかにし、共に活動を始める人なんですね。そこには、口では人とつながりたくないと言っている人もいるかもしれないですが、もしかしたら、声になってない声を聞いていって引き出して明らかにしていくのもコミュニティマネージャーの役割なのかもしれませんね。
山本:Polarisでは常にチームで仕事に取り組んでいるので、コミュニティ運営も複数のコミュニティスタッフがあたります。そのためか、当初想定していたことと違う事態が起きたり、最初に掲げたビジョンや目標が果たして正しいものだったのか分からなくなってしまったりすることがあるので、3ヶ月、半年、1年と期間を区切って、定期的にコミュニティ運営を振り返ることが必要です。コミュニティスタッフや受託側、オーナーなどのクライアントと1年先を見据え、1年後に振り返って評価を行うことで、柔軟に対応していく必要があります。また、目標から外れた部分についても、意図的に外れたのか、外れてはいけなかったのかを定期的に確認することが大切です。このプロセスを通じて、チーム全員で情報を共有し、適切な調整を行うことが、コミュニティ運営においてとても重要だと日々痛感しています。
今村さん:定義しない、しすぎないというところもすごく大切なのでしょうね。先ほどおっしゃられた余白の話は、我々が作っている場作りの中でも結構あります。100パーセントかっちり決めきらない。皆さんが使っていく中で、それぞれの色に染めていただく。そういったことが、コミュニティマネージャーもそうですし、人に関わるコミュニケーションの範囲にもあるのかなと思いました。心地よく働く、幸せに働くということは、私たちにとって大きなテーマですね。今日はありがとうございました。