長梅雨の中盤に差し掛かっていた、6月18日木曜日20時。
62名の参加者を迎えて、「わたしとあなたの”違い”をここちよく語る 1 時間」のオンラインイベントを実施。コミュニティの価値を問い続ける二者、CR ファクトリーとPolarisが、今あらためて「つながり」を語り合いました。
「心地よい」という意の“COZY”な雰囲気で、オンラインでつながり、お酒を傾けながら、お気に入りの音楽と共に――。
今回は、その様子をレポートいたします 。
五井渕)早速本題に入っていきますが、コロナ禍において、お二人は改めて「つながり」や「コミュニティ」について、どう感じていますか?
市川)自宅から徒歩7分のところに“cococi”というPolarisの事務所兼ワークスペースがあり、コミュニティスペースとしても存在しています。今、高校生になる我が家の子どもたちが、小学校低学年の頃からあるので、今年10年目の拠点です。子どもたちが放課後に行けて、親がいなくても見守る誰かがいてくれる、そんなコミュニティのあるワークスペースを身近な地域につくりたいという想いがきっかけです。
Polarisでは、場所や家庭環境にとらわれず、オンラインでも働ける仕組みを、作ってきたため、コロナ禍で一部の事業に影響はあったものの、私自身、暮らしにおいても、働き方についても大きな変化はありませんでした。
一方で、Polarisメンバーで、子どもが小さい家庭は、外遊びや、学習面で大変だったという声も多く聞かれました。また、コロナ禍でつながりのなかった人が大変だったと、周りから聞くこともありました。自分たちの活動・事業を肯定しつつも、そういう人たちにどんな“つながり”が提供できるだろう、未来に向けて自分たちも変化していかないといけないと思っているところです。
呉)コロナ禍では、自分の所属するコミュニティの形が浮き彫りになったと思っています。他者の評価ではなく、自分にとってよかったのか、よくなかったのか、リトマス試験紙のように浮き彫りになったのが今。
良い関係性が豊かで、マルチ(複数)にあり、オンラインでもプラスに働いていることがある一方で、「我慢してたんだな、自分」と、気づく関係があったとも思います。自分が構築してきたコミュニティに自分で成績表をつけ、未来に向けて、「このままでいるのか?」「そうでないのか?」と、問うている時期でもあると思っています。
~ここで、市川望美リクエストナンバーとして、嵐の「A-RA-SHI:Reborn」を~
五井渕)この、社会の大きな変化は、2人自身の内面にどんな影響があったのでしょうか。自分自身で感じたこと、周りとの関係性で気づいたことなどをお聞かせください。
市川)コロナ禍では家族との関係性の問題も浮き彫りになりました。確かに逃げ場がないと辛いなと思いました。子どもも高校生ですし、夫も職種的に通勤が必要だったので、家族全員で家の中でギュッと閉じて暮らす、ということはありませんでしたが、正直、息が詰まることもありました。
そんな時、仕事をするためだけではなく、1人の時間をつくるためにcocociに来ることができました。いい意味での“孤独”を味わえる場所があってよかった、というのが実感です。
こういうときには、つながるばかりではなく、“つながり”を緩めたり、解いたり、切り離すこともできるコミュニティも大事ですよね。Polarisは普段から、ある意味ソーシャルディスタンスな、距離を詰めすぎないコミュニティを意識していたんですが、改めて、その距離感が大事だなと再確認したところです。
呉)そのお話を受けてですが、普段から「家族もコミュニティだよね」という想いがあり、それがより認識された期間でした。でも家族って、アンタッチャブル。職場であれば、研修・コンサルティングといった、外部からの介入がありますが、家族は外部から手を出しにくい。いままでは当事者任せだった領域です。
ニュアンスは違うかもしれないのですが、家族の関係づくりは、ある意味コミュニティマネジメントと同じだと感じました。今回、長い時間を家族と過ごすことで、ちゃんと対話する、同じご飯を食べ、同じ景色を見て、同じ思い出を共有する、そして距離もちゃんととるということが大切だと再認識しました。
市川)いろんなことが言いやすい家族、コミュニティは、いい意味で課題を出せていますが、家族によっては、本当にいいたいことが言えない、まだ課題を出せていないという人もいます。なんとなく「言いたいことを言えてない」と感じ始めて、このまま日常には戻れないと思っているけれど、どう対話していったらいいんだろう……。そんな、“ゆらぎ”も出はじめていますよね。
呉)「非常時の価値観の差」、みたいなものが見えてきましたよね。二極化ではなく多極化で、どっちが上か下かではなく、違いが多岐に渡ってきた。家族のことも、上手くいってないことは、外に対して言いにくい一方で、上手くいっている知り合いの話を聞くと、自分と比較して悩んでしまう。ただ、上手くいっている側も、実は言いづらい。多極化した価値観が浮き彫りになることで、よいことも悪いことも言いづらい雰囲気が生まれてきていますよね。
市川)15年間、「コミュニティ」一筋の呉さんにとって、コロナ禍でコミュニティの捉え方って何か変わりましたか?
呉)今回だいぶ考えましたけど(笑)、コミュニケーションの手法は揺さぶられましたが、本質的な価値は変わらないというのが答えです。何気ない雑談や、誰かと話をすることで気分が晴れやかになったり、明るい気持ちになったりすること、そういう価値は変わらない。むしろ、人のぬくもりという身体性の価値は相対的に高まると思っています。
オンラインの良さは、距離感のとりやすさで、言葉はキツいのですが、関係性の暴力、煩わしさ、居心地の悪さに対する一つの処方箋にもなります。
今回、佐賀の大学生からインタビューの依頼があったのですが、物理的な距離を越えて、オンラインで出会うことが一般化してきましたね。これは、オンラインのメリットで、多様な人とつながれるようになりました。海外とのつながりも含めて、新しいものに出会う、イノベーションにつながる関係性を、たくさん生み出せるようになっていきます。ただ、つながる意欲とスキルがないと、格差と分断が起きてしまう可能性は、懸念材料です。
市川)本人が直接手を伸ばさないと、そういった“資源”につながれないというのは問題だと思っています。自ら手を伸ばさなくても、地域にいればつながれる。そんな「中継地点」みたいなものをつくりたいですね。Polarisでは「仕事」を通してコミュニティにつながるということを実践してきました。今後は、今まで以上に、コミュニティを意識しないで、コミュニティの恩恵をうけられる、感じられるような状態を作ること、その状態をインフラとして機能させるには、どうしたらよいかということを考えていきます。
呉)ようやくコロナも落ち着きをみせてきて、近所の公園に年配の方たちがゲートボールをする日常が戻ってきました。その様子をみて、ゲートボールがあるから、結果としてつながることができて、災害のときなどに、互助的に助け合える関係性になっているのを再認識したんです。一般化してはいけないけれど、男性はよりそういう傾向があるかなと思っています。野球でも将棋でもいいけれど、そういうコミュニティのつくり方は大切にしたいんですよね。
この3ヶ月の情報収集といままでの自分の経験値に照らし合わせると、「つながりの格差」が広がると強く思っています。15年間、「コミュニティ」一筋でやってきたCRファクトリーとしては、市川さんのいう「中継地点」、それぞれの快適な入り口で、結果的につながれちゃうことをどう用意していくか、そのことは、ものすごく関心を持っています。「スキルと意欲がないとつながれないよ」という正義を振りかざすのではなく、「中継地点」として、ふんわりとした入り口を作れる社会でありたいです。
市川)「結果として」という視点は、重要ですよね。それが第一目的でないように見えるような、“つながり”のデザインが、私も大事だと思っています。
五井渕)今回、CRファクトリーとPolarisが一緒に「つながり」を話そうと、この機会を設けたのですが、こういう風にコミュニティ同志が混ざり合って、いろんな実践を重ねることで、次の時代の兆しが見えてくるのかもしれませんね。
みなさん、ご参加ありがとうございました。
~最後は、呉さんのリクエストナンバーである、Mr.Childrenの「星になれたら」を聞きながら、フリータイムの歓談を~
新しい生活様式を徐々に受け入れ始めた私たち。
心地よい場所にいることで、結果的に“つながり”を感じられるような、少し未来のコミュニティ――。
新しいコミュニティ様式も、変化し始めています。
NPO法人CRファクトリー代表理事。
「すべての人が居場所と仲間を持って心豊かに生きる社会」の実現を使命に、NPO・市民活動・サークル向けのマネジメント支援サービスを多数提供。セミナー・イベントの参加者は5000名を超え、毎年多くの団体の個別運営相談にのっている。コミュニティ塾主宰。コミュニティキャピタル研究会共同代表。血縁・地縁・社縁などコミュニティとつながりが希薄化した現代日本社会に対して、新しいコミュニティのあり方を研究し、挑戦を続けている。
非営利型株式会社Polaris 取締役ファウンダー
短大卒業後IT系企業へ入社。出産後退職し、当事者発信型・循環型子育て支援のNPO活動に従事。2011年内閣府地域社会雇用創造事業ビジネスプランコンペで起業支援案件として採択され、地域における多様な働き方を支える基盤づくり事業を開始。「ここちよく暮らし、はたらく為の拠点」として”cococi” Coworking Space立ち上げ、2012年非営利型株式会社Polaris設立。育児中の女性たちによる新しい組織づくりや、地域からの新しい事業価値を創造するための事業に取り組む。2016年からは日々の実践と学びを統合するために立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に進み2018年3月終了。ライフストーリー研究を継続するため2019年8月より社会デザイン研究所研究員となる。高校生2人の母。
NPO法人CRファクトリー 副理事長・事業部長
2011年CRファクトリーに参画。2012年度から内閣府地域活性化伝道師に就任。数多くのコミュニティやプロジェクトの運営実績から、幅広い知見やバランス感覚に定評がある。NPO・行政・企業それぞれでの勤務・事業の経験から、それぞれのちがいを理解した支援が可能。CRファクトリー以外にも多様な組織の経営や事業に参画している。一般社団法人JIMI-Lab(代表理事)、認定NPO法人かものはしプロジェクト(コーディネーター)、株式会社ウィル・シード(インストラクター)など。