地域のつながりをつくる場「染地デジタルリビングラボ」

投稿者:polaris_iwatani

地域のつながりをつくる場「染地デジタルリビングラボ」

2021年から2024年3月末まで、調布市、国立大学法人電気通信大学、アフラック生命保険株式会社が実施してきた「つながり創出による高齢者の健康増進事業~CDC(調布・デジタル・長寿)運動」(以下、「CDC運動」※)。
PolarisはCDC運動の拠点のひとつである「染地デジタルリビングラボ」(住所・調布市染地3丁目)の運営業務に携わりました。

▼CDC運動とは
高齢者のデジタルデバイド(情報技術を使える人とそうでない人との格差)解消に取り組むとともに、リアルとオンラインを組み合わせた健康増進プログラム(運動、食事、認知に関する健康教室など)を通じて強いつながりを創ることで、健康寿命の延伸につなげるとともに、主観的幸福度の向上を目指す取り組み。

対話を重ね、つながりづくり

染地デジタルリビングラボは、健康をサポートするデジタル機器を利用したり、スマートフォンの使い方をスタッフに相談したりできる場です。ただそれらはあくまで、コミュニケーションの一助となるもの。本来の目的は、そこから一歩踏み込んだ「つながり」をつくることでした。

Polarisは調布を含む、さまざまな場でのコミュニティ運営の実績や、世田谷区での「R60-SETAGAYA」にてミドルシニアを対象に多様なはたらき方を創出した経験を活かして、「染地デジタルリビングラボ」の運営に携わることになりました。このプロジェクトに取り組む上で、Polarisが重視したのは、足を運んでくださる地域住民の皆さんとの「対話」です。つながりは無理につくり出すものではなく、振り返ると生まれているもので、対話の積み重ねがわだちとなって、つながりとなります。

Polarisがそのために大事にしたのは、適切な距離感と心理的安全性です。関わりを持ちながらも踏み込まれすぎない、ほどよい距離感は、コミュニケーションへの義務感を生まず、「自分で選ぶ」という自律行動を肯定していきます。また、発言や行動を否定されない場所である、という心理的安全性が保たれることで、実はストレスの根源になりやすい「たいしたことではないが気になること」の解消にもなり、健全な生活につながっていきます。

Polarisは地域住民の想いを第一に考え、「来訪者」(場を「利用」するというよりも、「来訪」するような気持ちでお越しいただきたいとの思いから、コミュニティスタッフはあえて「来訪者(さん)」という呼称を用いていました)に話しかけながら、つぶやきなどに表れたサインを大切に紐解いていくよう心がけました。そして、地域の皆さんがどのような場を求めているかを汲み取り、適度な距離感で安心できる場をととのえてきました。

染地デジタルリビングラボ内に設置された、健康をサポートする機器

イベントを共につくり、新しいことを学び、次のつながりへ

この取り組みの中で、地域の皆さんに染地デジタルリビングラボへ足を運んでもらうため、さまざまなイベントを考案しました。イベントのテーマはコミュニティスタッフ間で話し合って決めたり、時には来訪者や地域の皆さんに相談したりして決めることもありました。例えば、スマートフォンの使い方について話を聞いてみると、携帯ショップが行っている講習会やショップ店員への質問だけでは、「本当に困っていること」には対応できていないということがわかりました。実際に何に困っているのか、具体的にどうしたら自信をもって取り扱えるのか、地域の皆さんと対話することで、本当に求められていることが見えてきました。

イベントには、折り紙も積極的に取り入れました。折り紙の難易度は、1回折るだけでは折り方が覚えられないような、少し難しいものが好評でした。できたときの達成感はもちろんのこと、簡単に作れないがゆえに、その場にいる人たちで教えあったり、見せ合ったりと自然と会話が生まれるからです。折り紙の利点はそのほかにもありました。終了後に折り方の動画を送ると、参加者の皆さんがその動画を見て練習をしてくださったのですが、その動画を見ること自体、スマートフォンの操作練習になっていたのです。
そのほかにはオイルパステル画も評判が良く、慣れない画材に挑戦することが脳トレにもつながっているようでした。

こういったイベントの終了後には、参加者の皆さんとその後も継続して情報交換ができるようにと、LINEのオープンチャットを活用。自然とスマホ操作の練習になると同時に、人とのつながりが途切れず、またそこで交流が生まれるという良い循環になっていました。

季節に合わせて、飾って楽しめるような折り紙にもたくさん挑戦しました

ゆるやかなつながりを生む日常の場

折々でイベントを実施してきましたが、それ以上にPolarisが大切にしてきたものは、ハレの日ではなくケ、つまり特別なイベントのない普通の日でした。
染地デジタルリビングラボに来てくださる高齢者の方は、健康に気をつけたい、健康増進のためにデジタル機器を使ってみたいという気持ちとともに、「誰かと話ができたらいいな」という思いも持ちながら立ち寄ってくださることが多い印象でした。
ひとりでも気軽に、ふらっと立ち寄って、地域の誰かと話ができる。強いつながりではないけれど、同じ地域に住む人とゆるやかにつながれる。心掛けてきたのは、そんな日常に溶け込む場づくりです。その想いが通じてか、途中からはご近所の方、自治会の方が広報活動を手伝ってくださることも。Polarisが地域のお祭りにお手伝いで参加する機会もいただきました。

足を運びやすいよう、随時更新した入口の看板

来訪者の声

染地デジタルリビングラボは2024年3月末でクローズとなりました。最後の座談会では、今まで来訪してくださった皆さんが集まり、この場についての想いを寄せてくださったので、ご紹介します。

  • たくさん折り紙を折って知人に配ったところ、受け取った人が「毎回楽しみにしている」と言ってくれた。
  • ベジスコア(野菜摂取量評価装置)の数値を上げたいという目標ができたので、以前より野菜を食べることを心がけるようになった。
  • 友人とLINEで繋がることができ、言葉だけでなく写真のやり取りができるようになって嬉しい。
  • イベントに参加した縁で顔見知りができ、街中で会った時に軽く挨拶をしたり、会話をしたりするようになった。
  • スマホなどの相談をしても、他の場所では怒られたり話を聞いてもらえなかったりするが、ここでは相談事を聞いてもらえる。
  • スマホを持っていても何ができるかすらわからなかったが、スマホ教室に参加し、次第にできることも増え、やりたいことについて質問ができるようになった。
  • キャッシュレス決済のキャンペーンに興味があったが、よくわからなかった。染地デジタルリビングラボがなければ、チャレンジする勇気が出なかったと思う。

Polarisでは、「暮らす」と「はたらく」が愛着をもってつながる「Loco-Working(ロコワーキング)」というはたらき方を大事にしています。まちに新しいつながりを生み出し、まちを活性化するロコワーキングは、より良いまちづくりにつながると考えています。
本事例では、染地デジタルリビングラボという場を通して、気負わずに地域の方とつながる機会を作ることができました。そこで生まれたゆるやかなコミュニティが、今後もつながっていくことを願っています。


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