十七音でつながる、まちと人

投稿者:polaris_iwatani

十七音でつながる、まちと人

石神井公園エリアにあるコミュニティスペース「アンドエス」(Polaris自主運営)。入口を入ると、思い思いに本が並べられたシックな木製の棚が目に飛び込んできます。30cm四方の棚のひとつひとつにそれぞれオーナー(棚主)がいる「ひと棚書店」です。

そのオーナーの一人である福田健太さんは、団体職員の本業の傍ら、副業として俳句結社で『蒼海』の編集の仕事をしています。今回は、アンドエスをきっかけに、暮らすこととはたらくこと、両方で地域とのつながりを深めている方をご紹介します。

福田さんがオーナーの本棚には自身の編集する『蒼海』のほか、俳句関連の書籍が並ぶ。

俳句がくれた“きっかけ”

福田さんの棚を見たコミュニティスタッフからの依頼がきっかけで、福田さんは今、アンドエスで定期的に開催される俳句イベントの企画と講師を務めています。

俳句は難しそう――そう感じる人も少なくない中、季節ごとのお酒を楽しみながらの句会はアンドエスの人気イベントの一つとなっています。

「俳句は『座の文学』といって、一人で作るものではなく、みんなで作るものだという考え方があります。初めてでも安心して参加できるような雰囲気作りを心がけ、お互いの句を読み合って素直に感想を伝え合うような交流を大切にしています」と福田さんは話します。句会の参加者のほとんどが初心者で、近隣に住む50代~60代の人が多いですが、最近では俳句を取り上げたテレビ番組の影響で20代~30代の人が参加したこともあるのだとか。リピーターも少しずつ増えてきて、顔見知りの関係になった参加者もいます。

季節のお酒が、筆も思考も饒舌にしてくれる?

アンドエスでの句会以外では、石神井氷川神社で行われるイベント「井のいち」で、アンドエスのスタッフと共にひと棚書店の紹介と俳句体験イベントを開催し、多くの人が五・七・五の世界を楽しみました。


また最近では「練馬区100人カイギ」にも登壇。俳句を通した地域活動を紹介することで、練馬エリアで様々な活動をしている人たちと交流をしました。

「地域でなにかやってみたい」という気持ちはあったものの、踏み出すきっかけがなく、なんとなくやり過ごしてしまっていた淡い想いが、アンドエスのとの出会いをきっかけに少しずつ実現していったそうです。

練馬区100人カイギで話す福田さん。アンドエスをもっと知って欲しい、とも。

不安を安心に変えた、地域との新しいつながり

福田さんはもともと石神井公園団地で幼少期を過ごし、大学卒業を機にずっと一人暮らしをしていましたが、約2年前、実家である団地の建て替えのタイミングで再び石神井公園エリアに戻って暮らすことになりました。

ちょうどその少し前から、石神井公園駅の駅前地域の再開発で、新しいビルやマンションの建設や商業施設の入れ替えなどがあり、以前とは街の景色がすっかり変わってしまいました。また、石神井公園団地の住人の約7割が、建て替えのタイミングで違う地域へ引っ越してしまいました。そのような街の景色や住人の変化は、長年住んでいたからこそ、福田さんをとても不安な気持ちにしたと言います。しかし、俳句を通じて少しずつ街に知り合いが増えたことで、不安な気持ちでスタートした石神井公園での暮らしは、いつのまにか安心に変わっていきました。

福田さんの勤務先の農協はアンドエスのすぐ近くなので、句会の参加者の方が農協に買い物に来てくれたり、逆に農協のお客さんが偶然句会に参加したりすることもあるそうです。

「練馬や石神井には面白い方がたくさんいて、刺激を受けています」と話す福田さん

地域の一員へ―繋がる居場所

一方で、編集の仕事はリモートワークなので、気分転換にアンドエスで作業をすることもあるそうです。暮らしと仕事の真ん中に存在するアンドエス――福田さんは今、地域の一員になった充実感を感じています。

今後は、句会を定期的に継続することはもちろん、本格的に俳句に取り組みたい方向けの講座についても構想中です。俳句を通して、俳句の楽しさはもちろん、福田さん自身が経験したような地域に知り合いが増える安心感を届けて、これからも地域に繋がっていきます。


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