コミュニティやつながりの価値をいかに測り、可視化するかをテーマに、2026年1月24日、上智大学にて「実践と研究でつむぐ コミュニティ評価の新しいものさし~コミつな研の歩みと私たちが望む未来」が開催されました。
一般社団法人幸せなコミュニティとつながり実践研究所(以下、コミつな研)が主催した本イベントには、Polaris共同代表の大槻昌美やファウンダーの市川望美も登壇。旧石神井公園団地の建替えに伴うコミュニティづくりの事例などを通して、実践者と研究者が共に「コミュニティの価値」の測り方やその意味を考えた当日の議論の一部をレポートします。
日時:2026年1⽉24⽇(⼟)13:30〜16:30
場所:上智大学(東京・千代田区)
主催:一般社団法人幸せなコミュニティとつながり実践研究所
(以下、コミつな研)
第1部:コミつな研のここまでの歩み
-コミつな研の歩み
-連携パートナー(研究者・実践者)とのトークセッション
第2部:コミつな研の未来を考える
-研究者・実践者の取り組み発表
-コミつな研の未来を考えるトークセッション

コミつな研は、社会的な活動を展開する実践者と、それを研究する人たちが交わり、コミュニティやつながりの可視化を目指す取り組みです。
コミつな研の設立は、2023年1月。そのビジョンには、NPOや市民活動、コミュニティ活動が生み出している価値を、統計データ調査や実証研究によって可視化し、そうした活動の社会的意義(価値・効用)を広く社会に行き渡らせることなどを掲げています。また、NPOなどのソーシャルセクターや企業セクターと、アカデミアの研究者をつなぐこと、融合することにも力を入れています。
共同代表理事の川西諭さんによると、設立当初は、コミュニティーとは一体どういうもので、どうような価値があるのか、一般の人に納得してもらうことができなかったそうです。その後、理解者が少しずつ増え、今に至るまでに連携パートナーとのコラボレーションの実績が重ねられてきました。
Polarisは「誰もが暮らしやすく、はたらきやすい社会の実現」を目指し、「多様なはたらきかたを実現するための事業」に取り組む非営利型株式会社です。2012年の設立以来、地域に埋もれる価値を顕在化して新しい価値に転換し、仕事を生み出してきました。それらは、現在ではコミュニティ運営や地域イノベーション、事業伴走サービス、学び事業などの事業へと展開しています。
中でも、2022年から取り組んできた、旧石神井公園団地(旧団地、490戸)建替えに伴う地域コミュニティの伴走支援は、地域コミュニティの初期立ち上げでもあり、3年をかけた大きな事業でした。
旧石神井公園団地は東京23区内最大級の団地でしたが、1967年の完成から時間がたち、老朽化と住人の高齢化が進んでいました。このため、旧団地の管理組合などが一括建て替えを決め、2023年9月にBrillia City 石神井公園 ATLAS(844戸)として生まれ変わりました。
旧団地から引き続き居住することになった世帯は、全体の約3分の1。旧団地のコミュニティを承継しながら新たなコミュニティを形成するという方針が採られ、建設事業に関わった事業者とPolarisが協力してコミュニティの場づくり(Shakuji-ii BASE)を進めてきました。
その後も2023年から3年間、Brillia City 石神井公園 ATLASのマンション自治会の運営を支援することになったPolaris。コミつな研は2025年5~6月、Polarisと連携し、自治会の役員や住民を対象に、コミュニティづくりやPolarisの伴走の成果などを検証するインタビューやアンケートを実施し、レポートをまとめました。
【登壇者】
アンドパブリック株式会社 田中 多恵氏
ふたやすみ 石濱 千夏氏
非営利型株式会社Polaris 共同代表 大槻 昌美
コミつな研 共同代表理事・上智大学経済学部教授 川西 諭 氏
コミつな研 共同代表理事 呉 哲煥氏
コミつな研 理事・非営利型株式会社Polarisファウンダー 市川 望美氏
「第1部 コミつな研のここまでの歩み」では、コミつな研の紹介のほか、共同代表理事の呉哲煥さんが今回のイベントの趣旨を説明。「最大の目標は、実践者と研究者の交錯、コラボレーション、融合です。研究の色合いも強いですが、実践されている方も多いので、現場感もりもりの話と、かなりアカデミック寄りの話を、ジェットコースターに乗った気分で行ったり来たりしながら楽しんでいただきたいです」と話しました。

続いて、「連携パートナー(研究者・実践者)とのトークセッション」が行われました。セッションには、Polarisをはじめ、活動成果の可視化などでコミつな研と連携し、共同調査などの実績のある3団体が登壇しました。
初めの連携事例として、石神井公園のマンション建て替えに関するPolarisとコミつな研との共同調査を紹介。石神井公園エリアのマンションコミュニティでPolarisが事業者や住民たちと伴走した成果とは一体何だったのかを探ることが目的だったと言います。そのため、調査方法の検討からPolarisと相談していきました。
Polaris共同代表の大槻は、「石神井公園では、試行錯誤しながらコミュニティづくりをやってきました。よかれと思ったことをやってきましたが、それが本当に住民の皆さんにとっていいことだったのか、悩みながら走り続けてきました」と言います。ただ、今回の共同調査で、マンションコミュニティで起こった事象を調査・レポートしてもらい、自分たちがやってきたことの手応えを感じたそうです。「実績が可視化されたことは、自分たちの支援が何らかの形で役に立ったという確信につながり、自分たちのエンパワーメントにもなりました。調査結果が冊子になり、今後コミュニティづくりの成果を伝えるための初めの一歩になったと思います」と、来場者へ調査の意義を伝えました。

Polarisの調査を担当したコミつな研のメンバーは、コミつな研の理事で、Polarisのファウンダー(設立者)でもある市川望美さん。大槻の話を受けて市川さんは「今回の調査は、Polarisが自治会や住民のみなさんと一緒にやってきたことではありますが、そもそも自治会や住民のみなさんの功績を示せたことが大きかった」と話しました。
大槻は、ソーシャルな活動の価値を可視化する意味に言及。「集まるコミュニティ内で笑顔の人が3人増えました」と言っても、そこに価値があると伝わらないことが多いと指摘。第三者が論理的・客観的に価値を可視化することで、より社会に重要性が伝わり、信頼につながると主張しました。また、研究者やコミつな研の視点で活動や成果を言語化することで、コミュニティづくりに学術的な意味づけもできたと振り返りました。
一方で、市川さんは、当事者的な立場で調査や成果の可視化に取り組むことの難しさにも直面したと言います。
「すごく困っていた人がすごく良くなったと言えば、成果が出ているように見えます。しかし、一緒にコミュニティづくりを実践している立場からすると、『困っている人』を強調することには、抵抗があります。また、自治会や住民のみなさんと一緒にやってきたことの成果なので、誠実であろうとすればするほど、『Polarisの成果』と強調することに違和感が出てきます」
今回の取り組みを経て、大槻が次のように今後の方針を語りました。
「数値化・言語化したものを新しい取り組みにつなげていくだけではなく、可視化の方法も私たちなりに見直しながら継続していきたいと思います。新しい取り組みを始めるときには、最初から成果を可視化することを考慮していきます」

コミつな研の連携パートナーとのトークセッション2つ目では、千葉県松戸市で、悩みを抱え、孤立しがちな妊産婦に寄り添い、宿泊・居場所・訪問・相談などのサポートをしている「ふたやすみ」の石濱千夏さんが登壇しました。ふたやすみは、NPO法人かものはしプロジェクトとNPO法人さんまの共同事業で、経済的困窮やドメスティックバイオレンス(DV)の被害、外国籍で日本で出産などの困窮を抱えた妊産婦を支援しています。
石濱さんは、かものはしプロジェクトではもともと児童虐待をなくしたいという思いがあったと言います。そのためには、「妊産婦の社会的孤立の解消を目指し、人とのつながりの中で生きていくことが必要なのではないかと考えていた」そうです。妊産婦の社会的孤立の解消に取り組む現場の支援が効果を生んでいるという因果関係を可視化して、全国に展開したいという思いを実現するため、コミつな研との共同調査を始めました。
一方で石濱さんは、妊産婦への伴走支援を続けていても、対象者の困りごとは複合的なので大きな変化は感じにくく、熱い思いを持ったスタッフの心が折れてしまうのではないかという点も危惧していました。
コミつな研の呉さんは、成果を可視化することは外部の寄付者や資金提供者、助成団体などへ説明しやすくなると言います。また、もう一つの良い点として「内部のスタッフや支援者にとっても、可視化によるエンパワーメントの効果は大きいのではないか」と分析しました。
最後に、企業、自治体、NPO、財団法人など、さまざまなアクターと社会的インパクトの測定や指標づくりに取り組んでいるアンドパブリックの田中多恵さんもトークセッションに参加。「成果を図るインパクト指標を導入しながら、それをうまく活用できていない、PDCAサイクルを回せていないという団体が約30%」という状況を提示。コミつな研やさまざまな団体などとも連携しながら、価値や成果の可視化に取り組んでいきたいなどと話していました。
「第2部 コミつな研の未来を考える」では、他の研究者・実践者の取り組み発表に続き、関西学院大学教授の石田祐さんと、コミつな研の石川さん、呉さん、市川さんが、「コミつな研の未来を考えるトークセッション」を展開しました。ここでは、後半のトークセッションについてご紹介します。
【登壇者】
関西学院大学人間福祉学部教授 石田 祐 氏
コミつな研 共同代表理事・上智大学経済学部教授 川西 諭 氏
コミつな研 共同代表理事 呉 哲煥氏
コミつな研 理事・非営利型株式会社Polarisファウンダー 市川 望美氏
トークセッション冒頭で、ソーシャルセクターやコミュニティにおける「測定」について、参加者数やYouTubeの視聴者数など測りやすいものが優先されて、ナイーブなものやインタビュー調査のように可視化しづらいものは負けてしまうのではないかとの問題提起がされました。ここでは特に、調査の指標や数字の意味について意見が交わされ、国や自治体の支援や予算が数字で表されやすい活動に振り向けられがちになるのでないか、という懸念が示されました。

それに対し石田教授は、指標や数字そのものではなく、説明した相手が理解できるかどうかがポイントであると指摘。例として、引きこもりだった3人の状況が改善したとして、東京など都市部での3人と地方での3人とでは、同じ3人でも改善した事象の受け取り方に差があることに言及。そこに違いがあることが理解できるかどうかも重要だと投げ掛けました。
市川さんは、かつて子育て支援NPOで、理由を問わずに預けられる一時保育サービスを提案したときの経験を紹介。「子育て中のお母さんのために必要」と考えて提案したものの、母親たちから「それは私がやり遂げなければならないこと」「誰か分からない人を信頼して預けることはできない」などの声が出たため、ニーズがなくなったというものでした。
この経験から市川さんは、「数字の手前にある価値観や、行動をしばっている制約の変化というのも非常に重要」と指摘。価値観が変わるというのは、ものすごいことだと説明するために「0だと思われていたことが1になった」と、数字を使って、行動変容を図れたらいいのではないかと提起しました。
最後に石田教授は次のようにまとめました。
「自分たちの活動の本質的なものを図りたいと思っても、本質的になればなるほど測定できないものが出てくる。自分たちの測りたいものは何なのかをメンバーで議論するプロセスに意味がある。子ども支援であれば、子どもがこんな場面でこんな笑顔になったというのを積み重ねて、それを測ることができればいいし、測れなくても記録して団体として満足できればいいのではないでしょうか」
「フォーラムでは、コミュニティーや、人との人とのつながりは、健康と同じようなもの」というメッセージもありました。大切であることはわかっているのに、調子が悪くなって初めて、その大切さに気づくという指摘です。その考えから、コミュニティやつながりの可視化とは、健康診断のようなものではないかと展開していきました。
調子が悪くなっていないかな?というセルフチェックを、Polarisでは「心地よく暮らしはたらけているか?」という視点で定期的に見直しています。今後もコミュニティづくりやその価値を考える取り組みが心地よいものになるよう、ともに考えていきたいと思います。
【イベントレポート】100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ