インキュベーションとは

投稿者:Polaris staff

インキュベーションとは

ソーシャルビジネス用語集#2
「インキュベーションとは」

スタートアップ企業の支援でよく聞かれる「インキュベーション」という言葉ですが、具体的に何を指すのでしょうか。また、最近では「アクセラレーター」という言葉を、近い意味で使うことがあります。ここでは、「インキュベーション」の定義や目的について確認するとともに、スタートアップ企業支援の現状について見ていきましょう。

INDEX

インキュベーションとは

「インキュベーション(Incubation)」とは、日本語に訳すと“卵などが孵る(かえる)”ことです。ビジネスにおいてのインキュベーションは、孵化するまで親鳥が卵を温めて大事に育てるように、起業を考えている人や起業間もない企業を支援すること、つまり「創業支援」を指します。広義では、起業家をサポートする施設やアドバイザーも、インキュベーションの定義に含まれることが多く見られます。

インキュベーションの歴史は古く、1950年アメリカ・ニューヨーク州に配管工が閉鎖に追い込まれた農機具の製造工場をシェアオフィスにして、地元の企業や起業家に貸したことが始まりと言われています。彼はお金のない起業家たちの代わりに資金調達をしたり、事業ノウハウを授けたり、機械や従業員を用立てたりとさまざまな援助をし、大量の卵を育てる孵化器になぞらえて、「ビジネス・インキュベーター(Business Incubator)」としました。

こうした創業支援の土壌が育ったこともあり、イギリスやアメリカ、ドイツ、フランスは新しいアイデアで起業する人が増加していきましたが、日本では新産業は生まれにくい状況が続いていました。そこで、1999年に日本新事業支援機関協議会(JANBO)が新事業創出促進法の趣旨に基づき、地域プラットフォームの構築を支援する団体として設立され、現在は日本ビジネス・インキュベーション協会として産業支援機関、自治体、関連省庁等との連携を図る他、人材育成、調査研究などを行い、新産業創出の土壌を育てる活動を行っています。

こうしたインキュベーションを行う事業体では、相談側の事業の成長フェーズに適した次のような「人・場所・お金・情報」の支援をしています。

  • 資金調達や融資
  • シェアオフィスなどの施設の提供
  • ビジネスや技術サポートサービスへのアクセス
  • 実践的な経営支援
  • 起業・事業の創出までに発生するさまざまなトラブル・課題の解決
  • セミナーやイベントなどの開催

また近年、スタートアップ企業の支援は多様化しており、大手企業や自治体が起業直後のビジネスの成長を支援する「アクセラレーター」や、地方創生を掲げた起業の「ローカルベンチャー」を支援する動きも広がっています。

インキュベーションとアクセラレーター

「インキュベーションの目的は、企業が核とする事業を継続・拡大できるよう、アイデアレベルから成長の仕組みを共に考え構築し、新しい時代の新しい事業・企業を創出し、社会を活性化することにあります。

一方、近年増えている「アクセラレーター」の場合、目的は同じですが、インキュベーションとは支援を受ける側のステージが異なっています。インキュベーションは起業前の個人への支援も含みますが、アクセラレーターは、ビジネスの核を定めて起業した後の成長・拡大をサポートするため、スタートアップ企業や新規事業部を対象としています。大手企業や自治体はそのノウハウやプラットフォームを提供し、成長を「加速させるもの(=Accelerator)」として関わっていきます。

インキュベーションとアクセラレーターそれぞれの違いを理解した上で、スタートアップ企業が自分たちのステージを把握し、的確な支援を選んでいくことが、支援者側とのシナジーを効果的に発揮するための大きなポイントになります。

インキュベーション・アクセラレータープログラム

日本におけるインキュベーション・アクセラレーターの担い手は、自治体・大手企業・ベンチャーキャピタル(VC)(※)やNPO法人など多様です。また、東京大学を始めとし、大学キャンパスの敷地内にインキュベーション施設を建てたり、インキュベーション事業を運営する企業を創設したりする大学も増えてきました。では、これらの事業体が支援し、事業共創を目指すプログラムについて見てみましょう。

※ベンチャーキャピタル:将来、成長が見込まれるベンチャー企業やスタートアップ企業、団体に出資する組織(金融機関や出資を積極的に行う企業など)。

FASTAR

FASTARは中小企業を支援するために創設された、経済産業省所管の組織である「独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)」が、そのリソースを活用したスタートアップ支援事業です。事業計画策定を伴走してくれるメンター制度や、セミナーによるナレッジ提供、資金調達に向けたVCとのマッチング、大企業とのマッチング、共同開発・テストマーケティング先の紹介などの支援を行っています。支援の対象は日本全国で、起業を目指す個人からスタートアップしたばかりの企業まで、飛躍的に成長するようサポートしています。

また、中小機構のインキュベーション事業としては、起業セミナーやイベントの企画・運営、共済制度などを運営するだけでなく、全国の自治体や創業支援機関、国内外の政府系機関と連携しながら、起業家や中小企業の成長を国とともに後押ししています。また、インキュベーションマネージャーと呼ばれる専門家が常駐し、起業家や中小企業からの経営相談などに対応するインキュベーション施設を全国29か所に設置。さらに表彰制度『Japan Venture Awards』(※)を設けて、新たな起業家の発掘や育成、支援も行っています。

※Japan Venture Awards:革新的かつ潜在成長力の高い事業や、社会的課題の解決に資する事業を行う、志の高いベンチャー企業の経営者

NEXs Tokyo

NEXs Tokyo東京都産業労働局が主体となる創業・成長支援プログラムの一つです。事業のスタートアップと支援パートナー企業等との交流機会の提供、スタートアップ企業の事業展開に向けたマッチング支援、都内外の既存支援機関への紹介などを行っています。

ほかにも東京都産業労働局では、青山を発信地とする「青山スタートアップアクセラレーションセンター」や女性ベンチャーの企業成長を促進する「Acceleration Program in Tokyo for Women『APT Women』」などが創業支援プログラムとして行われており、東京のスタートアップ企業を多様な切り口でサポートしています。

コウカシタ・ヒガコインキュベーション

コウカシタ・ヒガコインキュベーションは、JR中央線東小金井駅の高架下に並ぶ3つの創業支援施設「KO-TO(コート)」・「PO-TO(ポート)」・「MA-TO(マート)」の集合体。民間のまちづくり会社であるタウンキッチンが企画運営し、主に周辺エリアの創業者を対象に、各種支援を行なっています。 小金井市が設置した公共の創業支援施設「東小金井事業創造センター KO-TO」は個室・ブース・コワーキングスペースがあり、創業セミナーや個別創業相談を実施しています。東京都の認定インキュベーション施設「PO-TO」は店舗・ショールームを併設できるシェアオフィス、多摩ものづくり型創業支援施設「MA-TO」は飲食可能な店舗や教室のほか、業務用の厨房を共用できるシェアキッチンがあります。 また、地域イベントの開催をはじめ、ウェブマガジン「リンジン」の運営や、空き物件の紹介など、創業者を幅広くサポートしています。

創業支援センターTAMA

創業支援センターTAMAは、2013年に東京都「インキュベーションHUB推進プロジェクト事業」の採択を受けて以降、多摩地域の起業家や創業を支援しているインキュベーション施設です。多摩信用金庫が運営しており、多摩地域で開催される創業セミナーや創業塾、創業個別相談会の開催情報などを起業家に紹介する他、起業家と多摩地域の創業支援機関とのマッチングなど、さまざまな取り組みを行っています。

Polarisも、創業支援センターTAMAと東京都「インキュベーションHUB推進プロジェクト事業」からの支援を受けて、2013年~2015年まで起業塾を実施していました。

Polarisが行うインキュベーション

Polarisの事業の一つにインキュベーション事業があります。「地域の中で仲間とともに育ちあい、地域を起点に育っていく起業」をコンセプトに、地域での起業を目指す人を応援する連続講座の実施、起業後Polarisが企画・運営する事業への協力など、地域で起業した人が地域内外で活躍できる場を創ってきました。それらの事例についてご紹介しましょう。

府中市市民活動センター プラッツ

府中市市民活動センター プラッツの企業支援コーナー「ソーシャルビジネスラボ」において、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスで起業、新規事業を目指す人をメンターとしてサポートしています。一年以内に起業を考えている方や企業後3年以内の方がご利用可能です。全国各地で起業や事業づくりをサポートしてきたPolarisが、チームとしてスタートアップを支援しています。

「おうちから起業」講座

地域での起業を応援する連続講座です。創業に必要な基礎知識を学び、自分の事業の価値を見つめ直す座学から、実践編の「はたらき方マルシェ」への出展まで、2ヶ月かけて学んでいきます。2015年まで東京都「インキュベーションHUB推進プロジェクト事業」の委託事業として実施、2016年からは自主事業として開催しています。(2020年~コロナの影響で開催見合わせ)

はたらき方マルシェ

「はたらき方に出会う」イベントとして、2016年から毎年夏と秋に2回開催してきました。ゲストを招いたトークセッション、地域で事業を展開している企業や調布で起業している方、「おうちから起業」講座の受講生・卒業生などによる出展ブース・ワークショップ、「子どものいる暮らしの中ではたらくを考える座談会」イベントを企画・実施してきました。(2020年~コロナの影響で開催見合わせ)

起業や新規事業を心に抱いていても、一人では壁に当たることも多いものです。小さな一歩が大きな未来につながるよう、インキュベーション・アクセラレータープログラムは、アイデアを形にするサポートをしてくれます。まずはこうした専門家へ相談してみると次の一歩が踏み出せるのではないでしょうか。

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※本記事は2022年5月13日時点の情報をもとに執筆されています。