ソーシャルビジネスとは

投稿者:polaris_sakae

ソーシャルビジネスとは

ソーシャルビジネス用語集#4
「ソーシャルビジネスとは」

環境・エネルギー問題、食品問題、ジェンダー不平等、人口問題、貧困格差など、私たちが生活している社会には多くの課題があります。国連加盟193か国(2015年9月当時)は、2016年から2030年の15年間で達成する17の目標をSDGsとして採択し、こうした課題を解決し、持続可能な社会の実現を世界規模で目指しています。
そうした流れの中で、社会課題を解決するビジネスである「ソーシャルビジネス」という事業形態にも注目が集まっています。本記事ではソーシャルビジネスについて、特徴や日本国内における事例までを解説いたします。

INDEX

ソーシャルビジネスとは

「ソーシャルビジネス」(ソーシャル・ビジネスとも)とは、環境・エネルギー問題、子育て支援や労働問題、地方創生などのさまざまな社会課題を、ビジネスで解決に導くための活動の総称です。

世界で見たソーシャルビジネス

世界でソーシャルビジネスを提唱したのは、バングラデシュのグラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌス博士(2006年にグラミン銀行とともにノーベル平和賞を受賞)で、次のような「ソーシャル・ビジネス7原則」を掲げています。

1. グラミン・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、技術、環境といった問題を解決すること。
2. 財務的、経済的な持続可能性を実現する。
3. 投資家は、投資額を回収する。しかし、それを上回る配当は還元されない。
4. 投資の元本の回収以降に生じた利益は、グラミン・ソーシャル・ビジネスの普及とよりよい実施のために使われる。
5. 環境へ配慮する。
6. 雇用者は良い労働条件で給料を得ることができる。
7. 楽しみながら。

引用:一般社団法人ユヌス・ジャパンWebサイト「ユヌス・ソーシャル・ビジネスとは 」より

経済産業省による定義

日本国内におけるソーシャルビジネスの起こりは、ソーシャルビジネス研究会(経済産業省)が2008年4月に取りまとめた「ソーシャルビジネス研究会報告書」にあります。その中で、以下の3つの要件を満たす団体を、「ソーシャルビジネス」と定義しています。

(1)社会性
現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
※解決すべき社会的課題の内容により、活動範囲に地域性が生じる場合もあるが、地域性の有無はソーシャルビジネスの基準には含めない。
(2)事業性
(1)のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
(3)革新性
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。

引用:経済産業省「ソーシャルビジネス研究会報告書(平成20年4月)」

ソーシャルビジネスの特徴

ソーシャルビジネスは社会課題を解決するという点において、NPOやボランティアとの類似が指摘されています。また、一般的なビジネスと同様に事業運営で利益を出すため、事業内容やビジョンなどで社会貢献を全面に出していなければソーシャルビジネスを手掛けている企業だと気づきにくいかもしれません。

ここでは、ソーシャルビジネスの特徴を捉えやすくするために、一般的なビジネスとNPO、ボランティアとの違いを解説します。

一般的なビジネスとの違い

一般的な企業のビジネスとソーシャルビジネスの最大の相違点は、事業目的です。特に、誰のために事業を行っているかに注目します。一般企業のビジネスは、株主や従業員への金銭的還元を目的としていますが、ソーシャルビジネスは社会課題に直面している人のために事業を行い、課題を解決することを目的としています。
また、一般企業の中にはCSR(Corporate Social Responsibility)として社会課題の解決を支援する活動もありますが、それらは本事業の成長のために社会的な会社としての責任を果たすことを目的としており、社会課題の解決自体を事業の目的にしていないことがほとんどです。社会課題の解決を事業目的に掲げているかどうかが、一般企業とソーシャルビジネスとの差だと捉えられます。

ボランティアとの違い

ボランティアもソーシャルビジネスも、社会問題解決という目的は同じですが、ソーシャルビジネスは事業を継続するために仕組み化するため、ボランティアよりも持続的に社会課題の解決に取り組むことができます。

NPOとの違い

NPO(Non-Profit Organization)は非営利団体です。非営利団体と聞くと、利益を出してはいけないと誤解されがちですが、事業で得た収益を資金提供者などに分配せず、今後の活動に使うため、Non-Profit(利益がない)としています。また、資金提供は主に寄付などの支援によるもので、支援者へ利益が還元されることはありません。ただ、事業型のNPOはソーシャルビジネスに含まれるため、明確な区分が難しいところもあります。

ソーシャルビジネスは、一般企業のビジネスとNPO、ボランティアのメリットを掛け合わせたものであると言えそうです。

ソーシャルビジネスに取り組む法人格

ソーシャルビジネスの実態を把握するため、2014年に日本政策金融公庫総合研究所が実施した「社会的問題と事業との関わりに関するアンケート 」によると、NPO(特定非営利活動法人)が54.7%で最も多く、次いで株式会社32.3%、有限会社7.4%、一般社団法人3.8%となっています。他に、数は少ないですがソーシャルビジネスに取り組む公益社団法人や公益財団法人も存在します。

ソーシャルビジネスが注目されている理由

ソーシャルビジネスが生まれたバングラデシュは、アジアの最貧国と呼ばれていた国でした。そうした発展途上国に住んでいるBOP層(Base of the Economic Pyramid:所得階層の最も下に位置する貧困層)と呼ばれる人たちは、2021年に世界人口のおよそ7割(40億人)を占めており、国が経済発展すれば将来的には「ネクストボリュームゾーン」として中間所得層に加わると予想されています。しかし、今のままでは企業が消費者と認めるほどの経済力はありません。

ソーシャルビジネスに注目が集まっているのは、BOP層が抱えるさまざまな社会課題解決を実現することが、世界にとって重要とされているためです。そのためには今ソーシャルビジネスに取り組んでいる企業や団体だけでなく、大企業なども巻き込んで積極的に取り組んでいくことが求められています。

SDGsの広がりと現状

SDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goals)とは、「誰ひとり取り残さない(leave no one Behind)」という共通理念のもとに設定された、持続可能な開発目標です。2015 年9月の国連サミットで採択された国連の開発計画「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」における2016~2030年の国際目標を表し、17の目標(ゴール)と169のターゲットから構成されています。

世界におけるSDGsの達成状況を2016年から毎年レポート(「Sustainable Development Report」)として公表しているのが、国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)とドイツのベルテルスマン財団(Bertelsmann Stiftung)です。これによると日本の達成状況は、2021年版で18位、2022年版では19位と年々順位を下げているのが現状です。一方、世界平均でのSDGs達成度は2年連続で後退していることが明らかとなりました。これらの状況から、2030年までにSDGs達成には、世界全体でSDGsの取り組みをさらに推進しなければいけないことが分かります。

経済産業省が支援する取り組み

現在、ソーシャルビジネスに取り組むNPOや企業に対して、国や自治体は融資または援助を行っています。なかでも経済産業省は、地域に新しい産業と雇用を生み出すソーシャルビジネスの可能性と課題に注目。2008年の「ソーシャルビジネス研究会」の設立を皮切りに、さまざまな支援策を積極的に講じてきました。

まず、『ソーシャルビジネス55選 』を2009年に公表。ソーシャルビジネスに取り組む先進的な企業や団体を紹介することで、ソーシャルビジネスの認知度の向上に努めました。同じ年には日本政策金融公庫に「ソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付) 」を創設し、資金調達面での支援もスタートさせました。またソーシャルビジネスの事業者と連携・協業先を探すNPOや中間支援組織が出会うプラットフォームとして「ソーシャルビジネス・ネットワーク」の立ち上げの支援や「ソーシャルビジネスステーション 」(ただし、日本政策金融公庫)の開設、地域のソーシャルビジネス関係者との「地域意見交換会」を開催するなど、ソーシャルビジネスの担い手が集まる場を設けてきました。

ソーシャルビジネスの現在の流れ

ソーシャルビジネスの国における注目度は、この数年でさらに上がっています。ソーシャルビジネスを手掛ける企業は活動資金を自らの事業収益で賄いながら、行政機関だけでは限界があった社会課題解決し、新しい産業や雇用の創出にも貢献しています。

こうしたソーシャルビジネスの支援として休眠預金活用の取り組みもあります。2009年1月1日以降10年以上引き出されずに休眠状態になっている預金(休眠預金)を、社会問題の解決に活用する制度です。2021年から政府に設けられた「新しい資本主義実現会議」でも、次のように明記され、社会課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスが注目されていることが分かります。

「社会課題の解決と経済成長の両立を目指す起業家が増えており、ソーシャルセクターの発展を支援する取組を通じて、その裾野を広げるとともに、さらにステップアップを目指す起業家を後押しする」

引用:「経済財政運営と改革の基本方針 2022 」より

ソーシャルビジネスの国内企業事例

ここからは、ソーシャルビジネスに取り組んでいる国内企業の事例をいくつかご紹介します。

働き方の課題を解決

ボーダレス・ジャパン

株式会社ボーダレス・ジャパン は「ソーシャルビジネスを通じて、より良い社会を築いていくこと」を使命とし、社会課題解決をグループで取り組んでいます。世界15ヶ国で45の事業を展開していますが、事業ごとに独立した会社を創設しており、各企業の代表(=社会起業家)が資金やノウハウをお互いに提供し合う「恩送りのエコシステム(生態系) 」が特徴です。ボーダレス・ジャパンの代表的な事業には「ボーダレスハウス 」、「AMOMA natural care 」、「ビジネスレザーファクトリー 」などがあります。

株式会社ローンディール

株式会社ローンディールは、「日本的な人材の流動化を創出する」をミッションに掲げ、企業で働く人材の越境で企業や高校、地域が抱える課題の解決を図っている企業です。企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL(ローンディール) 」、実際にレンタル移籍を利用した社員の体験談を発信しているメディア「&ローンディール 」、ビジネス経験豊富な人材を地元の高校に留学させる「大人の地域みらい留学 」などの運営を手掛けています。

ETIC. (特定非営利活動法人エティック)

ETIC. (特定非営利活動法人エティック) は、「起業家型リーダーの輩出を通じて、社会のイノベーションに貢献する」ことをミッションとして活動しているNPO法人です。社会課題に取り組んでいる企業や行政、NPOと協業し、社会起業家の創業支援プログラムや長期実践型インターンシップ事業を展開しています。他に先輩起業家や事業パートナーと繋がるコミュニティづくり、社会起業家の取り組みや新しい働き方などの情報発信を行っています。

新公益連盟(新公連)

新公益連盟(新公連) は、子育て支援や地域・国際協力、ダイバーシティ、中間支援を事業にしているNPOや企業が組織ごとの強みやノウハウを持ち寄り、ともに社会課題の解決に取り組むために設立されたNPO法人です。加盟団体は2021年の時点で112を数えます。具体的には加盟団体から上がってきた意見をまとめて各政党や省庁、自治体へ政策立案・提言、加盟団体による分科会の企画運営、経営サポートなどを手掛けています。

多様な人の社会参加の課題を解決

株式会社フクフクプラス

株式会社フクフクプラス は、障がいを持つ方のアートを活用した、障がい者支援ビジネスを展開している企業です。ソーシャルデザインの知見と実績を持つメンバーが設立した株式会社グラディエを前身とし、障がいのある人たちが制作した作品を企業や個人事業主にレンタルする「アートレンタル」、対話型アート鑑賞研修、ノベルティの小売の他、渋谷みやげ開発支援事業「シブヤフォント 」の企画運営などを手掛けています。

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ は、「こども食堂を通じて、誰もとりこぼさない社会づくり」をモットーに、全国の小学校区にこども食堂を設けるために活動している非営利団体です。こども食堂と「地域ネットワーク団体」(中間支援団体)をつないだり、こども食堂の理解を広げるための調査・研究活動をしたりしています。

株式会社オリィ研究所

株式会社オリィ研究所 は、「会いたい人に会いに行ける、行きたいところに行ける」をコンセプトに、遠隔地にいる人や外出困難者の社会参加を可能にするテクノロジーを開発している企業です。遠隔操作で自由自在に動かせる小型分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発・製造、身体労働ができる分身ロボット「OriHime-D(オリヒメディー)」、これらを企業向けに販売・レンタル、外出困難者が分身ロボットを操作してサービスを提供するカフェの運営などに携わっています。

IRODORI(特定非営利活動法人 彩)

IRODORI(特定非営利活動法人 彩) は、障がい者の社会復帰や就労を支援しているNPO法人です。多機能型⽀援事業所「ここいろ」、就労継続⽀援B型事業所「いろどり」、就労移⾏⽀援事業所「irodori」の運営や生活介護、実際の住居や生活環境を利用して障がい者が生活訓練を行える住居支援サービスを主な事業としています。豊かな生活を送れるように、1つでもできることを増やし、習慣化していくよう支援しています。

エネルギー課題を解決

株式会社UPDATER(旧・みんな電気株式会社)

株式会社UPDATER(旧・みんな電気株式会社) は、法人および個人向けに電力販売や再生可能エネルギーの供給を中心に、さまざまなソーシャルビジネスを手掛けている企業です。「顔の見えるライフスタイル」の実現を目指し、再生可能エネルギーを発電している生産者と個人をつなぐサービス「顔の見える電力 ™」の他、「みんなエアー」「みんな大地」「みんなリビング」「TADORi」の事業に取り組んでいます。

食の課題を解決

株式会社ユーグレナ

株式会社ユーグレナ(以下ユーグレナ社) は、ミドリムシの研究や生産、ミドリムシを使った商品開発・販売しているバイオテクノロジー企業です。バングラデシュのグラミン銀行でインターンとして働いていた、ユーグレナ社の代表の経験から、バングラデシュの子どもたちにユーグレナクッキーを配る「ユーグレナGENKIプログラム」、ヘルスケア商品「からだにユーグレナ」の販売、バイオ燃料「サステオ」の開発・供給など、多様な分野で事業を展開しています。

ソーシャルビジネスとPolaris

非営利型株式会社Polarisは、「心地よく暮らし、心地よくはたらく」ことが選択できる社会の実現をビジョンに掲げ、既存の働き方の仕組みに合わせてはたらくのではなく、一人一人がライフステージに合わせ、「心地よく暮らし、心地よくはたらく」ための仕組みづくりに取り組んできました。当初は子育て期の制約のある環境でもはたらけることを目指していましたが、現在は働き方が多様化する中で、副業の人やシニア世代も混ざり合いながら、さまざまな立場の人が心地よく暮らしはたらくスキームづくりに取り組んでいます。

こうした事業展開の過程には、西武信金がソーシャルビジネスを応援する「ソーシャルビジネス成長応援融資CHANGE 」(現在は募集終了)の存在もありました。資金的なサポートだけではなく、ETIC. (特定非営利活動法人エティック)による事業伴走、多様なソーシャルセクター経営者との接点を得られたことは大きな成果につながっています。

社会の文脈を変え、「未来におけるあたりまえのはたらきかた」をつくる

これが、Polarisがソーシャルビジネス企業として向き合っている社会課題です。

非営利型株式会社という選択

Polarisは非営利型株式会社(NPC:Non-Profit Company)です。非営利型と名前がつくものの、事業の発展や継続の際に資金を調達する必要性が出てくること、社会的な信頼性や機動性などから、「株式会社」を法人格に選びました。ではなぜ、非営利型株式会社というスタイルを選んだのか、Polarisの取締役ファウンダーである市川望美は次のように語っています。

「そもそも定款1つでNPO法人と株式会社を作ろうとしたんですね。その時に「定款で配当制限かければ、そんなことしなくていい」とアドバイスを受けたことで、「そういう方法もあるのか」と。また、NPO法人だとガバナンスや意思決定のスピード感が全然違いますし、仮説と検証しながら事業を進めていくことがすごく難しくなってしまうんですね。それから「地域×女性=ボランティア」と捉えられたくなかったですし、自分たちの事業が大きくなったときに、NPOだと資金提供を受けられません。市場である程度存在感を発揮するためにも、株式会社であることは必須でした。」

引用:【参加レポート】ソーシャルビジネス研究会主催「新たな会社形態、非営利型株式会社Polarisの挑戦」

人生100年時代、長く働いていく中でときとして制約の中ではたらくこともあるでしょう。むしろ、制約がない状況の方が実は少ないかもしれません。それでも、お互いを認め合いながら心地よくはたらく環境を作る――ソーシャルビジネスが介在することで実現できる、持続可能な未来があるはずです。

※本記事は2022年10月14日時点の情報をもとに執筆されています。


関連記事
用語集「非営利型株式会社とは」
https://polaris-npc.com/2022/03/18/7452/
SB研究会イベントレポート
https://polaris-npc.com/2022/08/09/8225/


<参考書籍>
「貧困のない世界を創る」ムハマド・ユヌス 早川書房 2008
「日本のソーシャルビジネス」日本政策金融公庫総合研究所・伊藤 健 同友館 2015
「グラミンのソーシャル・ビジネス 増補改訂版 世界の社会的課題に挑むイノベーション」大杉 卓三・アシル・アハメッド 集広舎 2017
「サステナブルビジネス 「持続可能性」で判断し、行動する会社へ」出雲 充 PHP研究所2021年
「9割の社会問題はビジネスで解決できる」田口 一成 PHP研究所 2021年