ウェルビーイングとは

投稿者:polaris_sakae

ウェルビーイングとは

ソーシャルビジネス用語集#5
「ウェルビーイングとは」

現代は「VUCA(ブーカ)の時代」と言われています。VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を組み合わせた言葉です。社会や経済を取り巻く環境が複雑でかつ常に変化し続けるために、未来の予測が立てづらい状態を指しています。

こうした状況下に生きていると、先行きが不透明なために漠然とした不安を抱えがちです。心身の健康を整えること、誰もがより良く生きられて変化にも柔軟に対応できる組織や社会を作ることが求められてきます。

本記事ではウェルビーイングについて、定義から官公庁の事例やウェルビーイング経営の事例までをご紹介いたします。

INDEX

ウェルビーイングとは

「ウェルビーイング(Well-being、ウェル・ビーイングとも)」とは、「幸福な状態」などと訳される言葉で、心や体の健康、人や社会とのつながりが良好に保たれていると感じられることです。主に医療や福祉の分野で用いられていましたが、現在ではデザインや住宅、企業の組織運営や国の施策など多方面で使われるようになっています。

WHOの定義

ウェルビーイングという言葉は、1946年に設立された世界保健機関(World Health Organization、以下WHO)憲章前文の、「健康」を定義した文章の中で初めて登場したと言われています。WHO設立者の1人である施思明(スーミン・スー)氏が、健康促進の重要性を訴えるとともに、「健康」という言葉を機関名や憲章に取り入れるよう提案したということです。

「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。)」

引用:世界保健機関憲章前文(日本WHO協会仮訳)

ウェルビーイングを感じる要素とは?

人々はどんなときに幸せだと感じるのか。ウェルビーイングに関する調査や研究は、1980年代頃からアメリカの企業や大学を中心に進められてきました。その過程で、徐々に幸福だと感じる状態にはいくつもの要素が絡んでいることが明らかとなったのです。

アメリカの調査会社であるギャラップ社(Gallup, Inc.)は、20世紀半ばから150カ国に幸福について調査を実施しました。

調査結果を受けて、幸せを感じるためには、以下の5つの要素が関係していると結論づけました。

  1. Career Well-Being:毎日の時間の使い方や、日常の活動を好きになること。
  2. Social Well-Being:人生で強い人間関係と愛を持てること。
  3. Financial Well-Being:経済的な生活を効果的に管理すること。
  4. Physical Well-Being:健康で、日々の活動をこなすのに十分なエネルギーがあること。
  5. Community Well-Being:住んでいる地域との関わり合い。

この5つの要素は、国籍や文化、宗教を問わず共通しています。どれか1つでも人生で上手くいっておらず悩んでいることがあると幸せを感じにくく、逆にどれか1つの要素が突出して上手くいっていても、他の4つの要素がある程度満たされていなければ幸福を感じることは難しいようです。

参考:Gallup, Inc. ウェブサイト「The Five Essential Elements of Well-Being 」より

他にも、ウェルビーイングを定義する理論に「PERMA理論」があります。
PERMA理論(PERMA™ Theory of Well-Being)とは、アメリカ・ペンシルベニア大学のポジティブ心理学センター長を務めるマーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)氏が創始した「ポジティブ心理学(Positive Psychology)」の中で、ウェルビーイングという概念を構成しているかつ測定可能な以下の5つの要素を指します。

  1. Positive Emotion(ポジティブな感情):過去~現在~未来の中でポジティブな感情を育てること。
  2. Engagement(没頭、単にエンゲージメントとも):自分のスキルや強みなどをフルに発揮して、難しいタスクに取り組むこと。
  3. Positive Relationship(良好な人間関係):他人に親切にすること、友人や家族、同僚などと良好な関係を構築すること。
  4. Meaning(意味):人生や仕事に意味や意義を見つけ出すこと。
  5. Accomplishment(達成感):人生における目標を明確にし、それに向かって努力すること。

参考書籍:「ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ」 マーティン・セリグマン(著)、宇野カオリ(監修, 翻訳) ディスカヴァー・トゥエンティワン 2014年
参考:Positive Psychology Center ウェブサイト「PERMA™ THEORY OF WELL-BEING AND PERMA™ WORKSHOPS 」より

日本におけるウェルビーイング

世界幸福度報告2023(World Happiness Report 2023) 」において、日本は137カ国の中で47位にランクインしています。「世界幸福度報告」は、GDP(国内総生産)に加えてギャラップ社が作成した6つの指標を評価軸にして、国ごとに調査を行った結果を、SDSN(Sustainable Development Solutions Network、持続可能な開発ソリューションネットワーク)が毎年公表しているレポートです。

日本は前年度の54位から47位にランクアップしているものの、主要7カ国(ドイツ、カナダ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本)の中では最下位です。「他者に対する寛容さ」のスコアが低く、「社会的支援」と「ディストピア(人生評価/主観満足度+残余値)」のスコアが前年度比で上昇しました。

国内でも重視されるウェルビーイング

近年では日本でもウェルビーイングに注目が集まり、企業だけでなく、官公庁や自治体でもウェルビーイングを重視するようになりました。「モノの豊かさ」よりも「心の豊かさ」を日本人が求めるようになったこと、子育てや介護などを理由とする多様な働き方の必要性、長時間労働による過労死や人手不足などの社会問題の解消などが背景にあります。従業員や国民一人ひとりの幸福感を見直し、ウェルビーイングを経営や政策の中心に据え置く動きが目立つようになったのではないでしょうか。

日本におけるウェルビーイングは、厚生労働省が「雇用政策研究会報告書概要(案)」で著した以下の定義が広く知られています。

「「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」

引用:厚生労働省「雇用政策研究会報告書概要(案)」

省庁が行うさまざまな取り組み

内閣府では2021年7月に、「Well-beingに関する関係府省庁連絡会議 」を設置。政府としてもウェルビーイングへの取り組みを進めるために、各省庁と連携しながら情報共有や優良事例の横展開を行っています。

また、2019年から毎年、「満足度・生活の質を表す指標群(Well-beingダッシュボード)」を用いた「満足度・生活の質に関する調査」を実施。豊かさを測る指標として用いられてきたGDP(国内総生産)では捉えきれない、国民の幸福度を可視化することを目的としています。

デジタル庁では現在、岸田内閣の目玉政策の一つとして2021年に掲げられた「デジタル田園都市国家構想」を進めています。デジタル田園都市国家構想とは、デジタル技術の活用により地方創生を促すとともに、「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)の実現を目指すための計画です。デジタル庁はデジタルの力を活用した地域の社会課題解決に、地方自治体や関連省庁と連携しながら取り組んでいます。

参考:内閣府Webサイト「Well-beingに関する取組
デジタル庁Webサイト「デジタル田園都市国家構想
デジタル田園都市国家構想Webサイト

ビジネスにおけるウェルビーイング

ビジネスにおいても、ウェルビーイングを取り入れる企業が現れています。働き方改革や優秀な人材の確保、働き方の多様性への対応、離職率の低下の回避などが主な理由です。また、SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)の観点からも経営手法などにウェルビーイングを取り入れている企業や団体も増えています。

SDGsとは、持続可能なよりよい社会の実現を目指し、世界の国々が2030年までに達成することとして掲げられた17のゴールを指します。そのうち、ウェルビーイングは目標3「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」として設定されています。

今後、従業員のウェルビーイングに配慮した施策を取り入れることが、企業成長の必要条件となってきそうです。

ウェルビーイング経営とは

ウェルビーイング経営とは、従業員の心身の健康と社会的な面での満足度が会社の業績向上につながることに着目し、さまざまな施策を打つことで従業員や組織全体の仕事へのモチベーション、従業員や取引先の幸福度を高めようとする経営手法です。

従業員にとっては所属している職場でやる気を持ってイキイキと働けることで、組織や会社への愛着心が向上し、企業にとってもウェルビーイング経営を進めることで生産性の向上や突発的な欠勤や遅刻が減ると言われています。

ウェルビーイングに取り組んでいる企業は約半数との調査結果

2022年4月、株式会社月刊総務が『月刊総務』読者と「月刊総務オンライン」メルマガ登録者を対象に、「ウェルビーイングに関する調査」を実施。110名から寄せられた回答のうち、約半数の企業でウェルビーイング経営に取り組んでいることが明らかとなりました。

参考:月刊総務オンライン「ウェルビーイングに取り組んでいる企業は約半数。測定のアセスメント実施は約2割にとどまる

一方、株式会社UPDATERが従業員数100名以上の企業の経営者・役員を対象に行った「ウェルビーイング」に対する意識調査では、経営者の70%以上が「ウェルビーイングの取り組みの重要性を実感している」と回答。主な理由を「従業員が働きやすい環境を作るのは当然だから」と答えた経営者・役員は、およそ70%でした。

参考:AIR Lab. JOURNAL(エアラボジャーナル):「【Well-beingについて意識調査】経営者の7割以上が「Well-beingの重要性」を実感取り組みを実施中の75.4%が「従業員の幸福度が目にみえるように変化した」と回答 」

上記の調査の結果から、ウェルビーイングを意識しているのは経営者・役員だけでなく社員も同様であることがわかります。ウェルビーイングを自社の取り組みとして導入している企業はまだ少ないものの、ウェルビーイングを施策に取り込んでいる企業からは「従業員の幸福度に変化があった」と回答があるようです。一方で、「どのように取り組んでいいか分からない」などの理由から、ウェルビーイングに取り組んでいない企業が多いことも見えてきます。

日本の企業で実施されているウェルビーイング経営の例

ここからは、日本の企業で取り組んでいるウェルビーイング経営の事例をいくつかご紹介します。

柔軟な働き方を導入した企業の例

2016年から、平日5時~22時までなら、上司の許可を得られれば働く場所や時間を社員が選べる柔軟な働き方を導入。これにより、「生産性が上がった」「幸福度が上がった」など、多くの社員が実感しています。また、2019年からはワーケーションを導入。2020年からは副業やインターンシップでも働く場所や時間を選べるようになりました。

独自の健康サポートプログラムを通してウェルビーイングに取り組む企業の例

健康診断やストレスチェック、保健師による全社員面談、メンタルヘルスケア研修の他、自社で開発した健康サポートプログラムを実施しています。また、従業員に運動する機会を増やしてもらうため、終業後の時間帯に運動セミナーを開催しています。

社内に推進部を置く企業の例

産業医と看護師・保健師が部署のメンバーとしてウェルビーイング活動を進める「ウェルビーイング推進部」を社内に置いている企業も日本にはあります。ウェルビーイング経営を企業の成長戦略の一つに掲げるとともに、生産性をアップさせ、企業価値向上と社会貢献につながることを目指しています。

このように、現在はフィジカルやキャリア面でのウェルビーイング向上に取り組んでいる事例が多く見られます。

Polarisの考えるウェルビーイング

Polarisは、「心地よく暮らし、心地よくはたらく」というビジョンのもと、「未来におけるあたりまえのはたらきかた」を作ることをミッションとして2011年から活動してきました。自分らしく、心地よくはたらき続けられるよう、積極的に「未来のはたらき方」を作っています。

私たちのミッション
私たちの取り組み

Polarisが考えてきた「未来においてあたりまえにしたいはたらき方」とは、どんな環境にあっても、「心地よさ」を判断の軸に、働き方や暮らし方を自分で選べることです。一人ひとりがその時どきの状況に合わせて、「心地よく暮らし、はたらく」ことができているということがまさに、「ウェルビーイング」な状態だと定義できますが、わたしたちはもう少し重層的な意味合いでウェルビーイングをとらえています。

それは、「個人のウェルビーイング」と「組織のウェルビーイング」の重なりへの意識です。

可能な限り多種多様な選択が実現できるようにするために、Polarisは多種多様な仕事を創り出したり、多様な選択を前提とした柔軟なチーム運営、組織運営に取り組んだりしてきましたが、それは一方で、経営が不安定で不確実な状態になりうるリスクをはらんでいます。

個人の心地よさと組織の心地よさを共存させることは可能なのか?
「させるーする」という使役の関係ではなく、犠牲になるわけでもなく、それぞれがお互いの心地よさを尊重し、関わり合い、調和することができるのか?

その問いに向き合いながら、日々「心地よく暮らし、はたらく」ための仕組みづくり、事業づくり、組織づくりに取り組んでいます。

Polarisが大切にしている「誰かと共に」という言葉は、私たちが常に、誰かとのつながりを意識していることを示します。はたらく一人ひとりが「私のウェルビーイング」を追求しながらも、Polarisという組織につながる「私たちのウェルビーイング」を共に実現する状態を目指すことが、Polarisが考えるウェルビーイングです。

※本記事は2023年7月5日時点の情報をもとに執筆されています。


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