【イベントレポート】100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ

投稿者:sekiguchitomomi

【イベントレポート】100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ

高度経済成長期に建設された大型団地の建て替えによって誕生した大規模分譲マンション「Brillia City 石神井公園 ATLAS」(東京都練馬区)内に、Polarisが参加型コミュニティスペース「アンドエス」を開設しました。

アンドエスのオープンを記念し、アンドエスを設計した建築家・武田清明さんや、医療・介護と地域との連携を進める理学療法士・糟谷明範さんらが語り合うイベント「100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ」を1月13日にアンドエスで開催しました。

登壇者や参加した住民から、新たなコミュニティスペースへの期待や開かれたコミュニティづくりなどについて、さまざまな意見が出されました。

イベント概要

100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ
日時:2024年1月13日(土)13:00~20:00
場所:アンドエス(東京都練馬区上石神井、Brillia City 石神井公園 ATLAS内)
内容:関係者内覧会、トークイベント、歓談タイム
主催:非営利型株式会社Polaris
協力:株式会社パンフォーユー
参加者:マンション居住者、近隣住民、アンドエス・Polaris関係者ら約40名

1967年完成の旧団地は老朽化と高齢化が進行

建て替え前の石神井公園団地(旧団地)が完成したのは1967年。東京ドームとほぼ同じ約42,000平方メートルの敷地内に、鉄筋コンクリート造地上5階建の建物が9棟、490戸の住戸がありました。建設から時間がたち、建物・設備の老朽化と住民の高齢化が進んでいました。

旧団地の管理組合が2007年に建替・修繕検討委員会を設置し、旧団地の再生について勉強と検討を重ねました。その結果、2019年に一括建替え決議が可決され、練馬区初となるマンション建替円滑化法による建替えが決まりました。

新たにできたBrillia City 石神井公園 ATLASの総戸数は844戸で、この約3分の1が旧団地から引き続き居住する世帯です。建て替え・新築にあたっては、旧団地のコミュニティを承継しながら新たなコミュニティを形成するという方針が採られ、旧団地から樹木も移植されました。

同マンションを拠点としたコミュニティづくりを進めるため、事業協力者として建設事業に関わった東京建物(株)、旭化成不動産レジデンス(株)、(株)URリンケージの3社が2021年1月、建設中のマンションの特徴を紹介するゲストサロンに併設する形でコミュニティ醸成拠点「Shakuji-ii BASE」(シャクジイイベース)をオープン。Polarisが運営を担ってきました。そして2024年1月、マンション完成に合わせ、Shakuji-ii BASEで育まれたつながりや取り組みを生かし、Polarisとしてアンドエスを開設しました。

コミュニティスペース アンドエス 概要

コンセプト:「私の暮らしの続きの場」
家でもなく、会社のようなオフィシャルな部分とは違う、少し間のような場所で、新しい自分らしさを出せるような場所に、という思いが込められています。エスは、石神井の「S」をはじめ、サスティナビリティ、センス、シンプルなど、利用者がいろんな「S」を持ち寄って、過ごしてもらいたいとの期待から命名されました。

アンドエスWebサイト

主な機能:

  1. フリー利用
    お買い物や散歩の休憩に、仕事と家の切り替えの時間に。落ち着いた空間でほっとする時間を過ごしていただけるプラン。
    2時間4名まで無料で利用可。販売商品(パン、セルフコーヒーなど)のみ施設内で食事可。飲み物は持込可。パソコン作業可。商談・勧誘での利用は不可。
  2. 学ぶ、働く
    店内のほどよい雑音とBGMの中で仕事や学びに利用可。Wifiと電源が使えるプラン。ここに来ると誰かに会える、そんな場所を求めている方におすすめ。
    入会費:3,300円、利用料:5,500円/月
  3. ひと棚書店
    例えば趣味の本を集めた本屋さん、自分の作品とそれにまつわる本を飾った本屋さん。ひと棚ごとに店長が違うシェア型書店。
    入会費:3,300円、利用料:中段3,300円/月、上段下段1,650円/月
  4. レンタルスペース
    ワークショップや交流会などグループでのご利用に活用可。
    入会費:3,300円、利用料:半面レンタル60分1,100円〜、全面レンタル60分2,200円〜、キッチン利用(オプション)60分1,100円

私たちにとって、コミュニティの役割とは

トークイベントでは、建築家・武田さん、医療・介護と地域との連携を進める糟谷さんに、同マンションでのコミュニティづくりに関わってきたPolarisの野澤恵美も加わって、話しを進めました。

左:武田清明氏、中央:野澤恵美、右:糟谷明範氏

トピックス
・地域の人がつないだいくつもの縁
・石神井から考えるコミュニティ
・小さな「コト」を生み続けていくこと

地域の人がつないだいくつもの縁

野澤:石神井のプロジェクトに関わるようになって約3年がたちます。コロナ禍だったので、初めに建替組合の理事さんたちとzoomでオンライン形式の会議からスタートしました。コミュニティづくりの提案をしましたが、先は見えない状態でした。ただ、そういう中でも、「石神井でおもしろいことをしている人がいるよ」と、地域でさまざまな活動をする人たちを紹介いただきました。

武田さんにアンドエスを設計していただいたのも、そうした縁です。アンドエスの設計をどなたに依頼するか考えているときに、武田さんの「自然と建築」という考え方を紹介するホームページを見ました。事務所が石神井公園のほとりにあり、依頼したいなと思いつつも、敷居が高そうで無理だろうと話していたのです。ところが地域の人がつないでくれるということになり、「お話しだけでも」とお伝えしたら、二つ返事で引き受けていただくことに!思いがけない喜びと共に始まりました。

武田氏との出会いを語るPolaris野澤(一番右)

武田:お話しをいただいたのは、石神井に来てまだ2年というときでした。子どもも地元の学校に通っていて、地元のプロジェクトに関われるのはすごく幸せだなぁと思いました。

例えば、子どもたちが学校の帰りにマンガを読みに来たりできる場所があるって、すごく幸せなことですよね。上にマンションがあって、たくさんの方が住んでいるということは、同じような状況の方もたくさんいるわけです。そうした方が日常の幸せを感じられるような場所を設計するというのは、すごく大事なことだと思いましたね。

野澤:糟谷さんのことは、Polarisで仕事をしているメンバーから5年ほど前から聞いていました。京王線の多磨霊園駅(東京都府中市)の最寄りに、介護職の方が地域との関わりをつくろうとして運営しているカフェがあるということでした。

ハードを見ている武田さんと、ソフトを見ている糟谷さんと、アンドエスでコミュニティについて一緒に話ができたらいいなと思い、今日、来ていただいています。

糟谷:理学療法士というリハビリの専門職です。今は会社を作って、訪問看護ステーションという看護師がご自宅にいってケアする事務所と、ケアマネージャーという介護保険を使う時にプランを立てる事務所と、カフェを運営しています。

カフェの隣に築40年くらいのアパートがあり、カフェをつくる際に8~9部屋、空いていたんですね。医療が地域と関わるにはどうしたらいいかという問いに対する一つの取り組みとして、小学生が集まる場や、大学生が運営する中高生の学びの場、アトリエなどを空いていた部屋で始めました。

石神井から考えるコミュニティ

野澤:このマンションには、高齢の方や単身世帯の方もいます。すると、隣近所の近しい他人というのは貴重な存在になってくると思います。

糟谷:普段、地域と医療についての取り組みをしていますが、医療というのは、身近だけれど身近でないというところがあります。病院や医者という場所に対して、みんな、行けば何とかしてくれるんじゃないかと思っています。そんな中で、学校も公共施設も公的な機関も、いろんなところが外に開けてきているのに、実は病院だけが開いていないので、中身が分からない。

実際に医療にかかってみると、期待したことのほんの少ししか対応してもらえない、というようなことがあります。でも、病院でなくともできることはあるんです。そこは医療だけでなく地域の人や家の近い人たちなどがフォローすればいい。そうすれば、助かる命はもっとあるんじゃないか、もっと楽しく幸せに暮らせる人たちが出てくるんじゃないかなと思って地域の場づくりをやっています。

武田:「病院はいらない」という考えを持っている先生がいらして、高齢の方が最後、どこか分からない白い箱(病院)で亡くなるよりは、愛着のある家で最後を過ごせる社会、そうした仕組みをつくろうとしています。

その先生によると、夫婦で住んでいると、最後はだいたい男性の方が短くて、女性だけが残るのだそうです。そうなると1人になった瞬間に会話がなくなって、痴ほうになってしまうことがあるそうです。

医療と介護はグラデーションになっているのですが、その介護の手前で、何か開いている場所があれば、会話もできて、寿命も延びていくのでは、と思います。

糟谷:そういう場があった方がいいんじゃないかと確かに思います。しかし、実は人生はそんなに簡単ではないので、選択肢でいいと思うんです。

家で死ななくてもいいと思うんです。「家で死にたい」という選択ができるかということが大事だと思うんです。そのもっと手前で、人と話すことで自分がどう死んでいくかが言えるコミュニティや場を作りたいというのがこれまでの取り組みです。

ところが、そういう意図でつくっているコミュニティに、実際に想定通りに人が集まらないんです。カフェに高齢の方も来るかと思っていたんですけど、そうはならなかった。「入りにくいよね」という声も聞かれます。コミュニティが濃くて、あんまり開いていなかったんではないかと僕は思っています。ですから、全然知らない人を外から呼んでくるという活動を積極的にやっています。

野澤:ここのマンションは、駅近というわけではないので、最初は何をしたらいいか、何かやったところで人が来るのかと心配をしていました。でも実際には思った以上立ち寄ってくれる人が多いんです。隣にミニスーパーがあるので、ついでに気に掛けてくれる方はすごく多いです。マンション内の絵画教室に通う人がふらっと寄られたり、きっかけは多様で、マンションに住んでいる人以外もいらっしゃいます。

武田:1階がアンドエスのようになっているマンションが、増えるといいですよね。マンションって、間取りが似ています。でも住んでいる方は単身だったり、家族が多かったりします。家族だとライフスタイルもそれぞれで、みんな違います。そうすると、どうしても空間とライフスタイルが合わないことが出てくる。そのとき、こういう場所がバッファー(余裕、緩衝)になります。

つい長居したくなるアンドエスのメインテーブル。

一人で過ごすことが多い方なら、こういうところに来ると気持ちが温かくなるとか、ここで水ようかんづくりのワークショップがあれば、その中で役割を見つけるとか。子どもなら、お父さんやお母さんが帰ってくるのが遅いときや受験勉強に使うとか。マンションの“離れ”みたいな感じで使っていただくこともできます。

建築家というのは、その空間の中でライフスタイルを完結させなくちゃいけないと考えるのですが、逆に取りこぼしがあった方が、補いたい人がまちのようにこういう空間に集まってきて、新しいコンテンツをつくったりする。そう考えると、設計図もいらないかもしれないですね(笑)。

糟谷:取りこぼしながら、委ねる、ですかね。箱は作って、その後は住んでいる人に遊んでもらう、という感じ。

武田:実際、勉強したいと思ったら、スタバでやったりしていますよね。日頃、家の中で完結しているかというと、意外と外で生活しています。ですから、こういう住まい方もありなのかなと思いますね。

小さな「コト」を生み続けていくこと

武田:持続可能なコミュニティにつながる話だと思いますが、物事がずっと動いていてコミュニティが新鮮さを保っている状態――その新鮮さが大事だと思っています。例えば、リーダーみたいな人が一人いて、全部を仕切っていくと新鮮さがなくなってしまいます。また、コミュニティの目的を決めてしまうと持続可能にならないのですよね。

逆に、もっと小さい主体性をかき集めたら、すごく風通しのいい、ずっと動き続けるコミュニティが生まれるんじゃないでしょうか。そうすると、コミュニティがどんどん多様になってくるんじゃないかと思っています。

例えば、今回設置した「ひと棚書店」なら、小さなコミュニティをいくつもつくることができます。

発信するのが苦手な料理教室の先生がいるとしたら、Webサイト作って毎日更新するのはできなくても、棚1個分の発信にすると、ハードルがすごく下がります。アーユルヴェーダ(インド・スリランカの伝統医療)が好きな料理研究家がいたとして、チラシの横にそういう本を並べて、「毎週土曜日にやっています」と案内すれば、「こういうの好きなんだ」というのが分かります。

「棚一面埋めてください」と募集したら、結構ハードルは高いですが、一棚ごとであれば多様性が生まれてくるのではと思います。

糟谷:閉じているコミュニティであったとしても、自分たちのコミュニティは何が目的なのかが言えて、「自分のコミュニティは閉じています」と言えたらいいんだと思います。そして、その中の誰かが、ほかの閉じているコミュニティと接点を持つようになると、コミュニティが溶けていくのではないでしょうか。

コミュニティというと、キラキラ楽しくなきゃいけないという考え方があったりします。そういうコミュニティもいいと思うんですが、死にたいとか、逃げたいとか、恥ずかしいいとか、嫌いとかということと、楽しい、うれしい、幸せということをどう共存できるか、そういう場をいかにつくれるかにチャレンジしたいですね。

野澤:そもそも理事さんたちの「今までのコミュニティを守りたい」ではなく、「今までのコミュニティを混ぜながら新しい人たちに入ってきてほしい、新しい発想を持ってきてほしい」という想いが、アンドエスが生まれた理由でもあります。今日この場にも多くの地域の方がいらしていて、石神井の今と昔について、意見をいただくこともできました。本当に石神井を愛する皆さんの熱意があったからできたのだと実感しています。

糟谷:コミュニティは本当に難しいと言われています。人の暮らしは変わりますし、食べたいものも日々、変わる。だから、作る方も、受け取る方も、答えを出さないことがいいかなと思っています。自分の正しさを押し付けない方が持続可能ではないかな、と。そうすると、閉じることもあるし、また復活することもある。外から来る人もいて、ぐちゃぐちゃになって、また固まって、いくつか分裂して、みたいなのができてくるといいと思っています。

武田:今日はいろんなヒントをいただきました。Polarisさんがこれをどう育んでいくのか、本当に白いキャンバスから今、始まっていると思います。

ある日は、ふらっと入ってきためちゃめちゃセンスの若い人がDJやっていて、いいなと思って次の日に来たら、加山雄三が流れているとか。

祭りまではいかないけど、家ではない環境で、そこで子どもとおじいちゃんが囲碁をしているみたいな状況ができると、すごい豊かな日常ですよね。そういう場所になってくれることを期待しています。

トークイベント登壇者

武田 清明氏 たけだ きよあき
(建築家/武田清明建築設計事務所)
1982年生まれ。2007年イーストロンドン大学大学院修了。2008年より隈研吾建築都市設計事務所勤務、2018年同事務所設計室長。2019年武田清明建築設計事務所設立。SDレビュー2018鹿島賞を受賞。2020年グッドデザイン賞受賞、2022年住宅建築賞受賞、日本建築学会作品選集新人賞受賞。千葉工業大学(2020年~)・日本女子大学(2021年~)・神奈川大学(2023年~)にて非常勤講師。武田清明建築設計事務所

糟谷 明範氏 かすや あきのり
(理学療法士/株式会社シンクハピネス代表取締役)
東京都出身。2006年に理学療法士免許取得。総合病院、訪問看護ステーション勤務を経て、2014年に株式会社シンクハピネスを創業。「“いま“のしあわせをつくる」をビジョンに東京都府中市で活動している。LIC訪問看護リハビリステーション(訪問看護)、lifedesign village FLAT(居宅介護支援)、the town standFLAT(カフェ&コミュニティ)という3つの事業を行いながら、さまざまな立場の人たちが集まり、そこで起こるコトをつくる「たまれ」を運営している。2022年立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。株式会社シンクハピネス

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