2024年3月20日(木)、市民活動サポートセンターいなぎ主催の講座において、「世代循環型のNPO~事業承継と世代交代の仕組みづくり~」と題して、非営利型株式会社Polarisファウンダーの市川望美が講演を行いました。その様子をレポートいたします。
市民活動サポートセンターいなぎは、市民活動を推進するための拠点施設でもあり、市民同士、市民活動団体同士がお互いに協力し、稲城のまちづくりに貢献すること応援している団体です。活動に関する相談にのったり、定期的にサロンを開催したり、活動を志す市民が気軽に交流が持てるきっかけを提供しています。
今回は、活動や事業を次のステージに移行することについて考えている、NPO団体の運営者やその関係者など約15名がご参加。
「組織の文化をどう継承していけばよいのか」
「高齢化で世代交代どうしたらよいか、若い人たちとどうつながったらよいか」
「団体が時代にあわせてどう変化していったらよいか」
「ほかの団体や活動とどのように協働したらよいか」
といった意見が出る中、グループワークを交えながら講座がすすめられました。
講座の前半は、Polarisの取締役ファウンダー兼チーフストーリーオフィサー(Chief StoryOfficer)の市川望美が、自身のプロフィールを紹介しながら、活動の原点となった子育て支援NPO団体の話、Polaris立ち上げの理由や事業内容などをお伝えしました。
Polarisは誰もが望めばどこでも自由に働ける「未来におけるあたりまえのはたらきかた」をつくる、と掲げて立ち上げた会社。大切なのは、仕事に人が合わせるのではなく、人に仕事を合わせられること。(市川)
▼参考ページ
Polarisの取り組み
また、NPO団体で活動していたころに感じたボランティアの素晴らしさや、地域への想いを引き継ぎつつ、あえて違う器としてPolarisを立ち上げた理由についても話しました。
地域で長年頑張ってきたプレイヤーの人たちが、自分の子どもが大きくなったときに、教育費がかかるから、という理由でボランティアを卒業するのは何か残念だなと思って。それで地域に関わり続ける選択肢として、仕事が機能しないだろうかと思ったのです。(市川)
2016年に代表を交代したことについて、市川は「創業時(2012年)から、できれば3年、遅くとも5年で交代する」と決めていたといい、その理由について次のように語りました。
組織のステージや形を変えていかなくてはと思っていたんです。リーダーがストーリーを語り引っ張っていく段階だと、雰囲気で「いいな」と思ってくれる人がいても、身近に感じてもらえない、という欠点もあります。創業者の想いが強すぎて、他の人がかかわりにくくなってしまうこともあるので、代表を変えるなどして組織の雰囲気を変えないと無理ではないかと思っていました。(市川)
▼参照記事
【参加レポート】「NPO事業承継サミット2023~女性中心型組織とリーダーシップ」から考える、意思決定・代表交代・インパクト
市川は、代表の交代には痛みがともなうことを認めつつ、組織を再起動するには有効であり、事業が拡大する可能性を秘めていると伝えています。
代表交代というのも、「私たちの活動をもう一度再起動して行く」「立ち上げた時みたいな情熱を取り戻す」という意気込みや、ビジョンを印象づけることができるという点では必要な新陳代謝ですし、とても大切だと思います。でも、もっと大切なのは、何のために世代交代や事業承継するかということ。それをすることで何ができるようになるのか考えることが重要です。(市川)
講義の最後には質問が飛び交うほど。「高齢化した組織にどう若い人材を呼び込めばよいか」という質問に対しては、Polarisが実践してきたアイディアをもとに、組織にアンケートを取るなどしてどういう認識を持っているかを内側から見直してみることや、若い人材との意見交換をする場を設定してみる、という提案をお伝えしました。
市川の講義後は、会場に残って参加者同士でお互いの団体について意見を交わしたり、市川に直接質問をしたいと、長い列ができたりするほど関心の高さがうかがえました。
・組織文化を醸成する“こころえ”-Polarisの「仕事のしかた」とは?vol.4-
・【イベントレポート】地域協創プラットフォームキックオフイベント~パネルディスカッション「知る・つながるで目指す協創社会」~
・【参加レポート】「湘南セカンドキャリア地域起業セミナー」に市川望美が登壇―WhyMe?スキルと経験の棚卸しワークショップ
人生100年時代に入り、高齢期をいかにウェルビーイングに生きるかに注目が集まっています。そこには、それまでの経験やキャリアを活かして働くという視点が欠かせません。一方、人手不足が深刻化し、企業や自治体は様々な取り組みを始めています。
このような状況を踏まえ、世田谷区は令和3年2月から令和4年3月にかけて、働きたいミドルシニアと地域の仕事を繋ぐモデル事業「R60‐SETAGAYA‐」を実施。令和4年度からは公益財団法人世田谷区産業振興公社に事業が引き継がれました。Polarisは、令和2年度より世田谷区および世田谷区産業振興公社からの委託を受け、携わってきました。
「R60‐SETAGAYA‐」では、「働きたいミドルシニア」と「地域の事業者」をつなぐ、マッチング支援を行っています。従来のミドルシニアへの職業紹介では扱われなかった、短期・単発の業務委託の案件を創出し、働きたいミドルシニアと働き手が必要な事業者をマッチング。「長期に関わることが難しい」、「今までとは違う仕事に出会いたい」など、様々な働き手のニーズに応えています。また、事業者に対しても、労働力不足の解消に貢献するだけではなく、地域やミドルシニアとの結びつきを強め、新たな事業の可能性を探るという効果も生まれています。
Polarisは主に以下の3つの役割で、本事業に携わってきました。
R60-SETAGAYA-は、より多様な働き方の選択肢をつくることを目的としています。また、モデル事業に参加したミドルシニアからは、柔軟な働き方を求める声が多くありました。Polarisでは、こうしたニーズに答えるため、R60-SETAGAYA-ならではの案件づくりに貢献してきました。具体的には、ギグワークと呼ばれる短期・単発の業務委託の案件の創出です。R60-SETAGAYA-で取り扱われる案件は、元々あった業務ばかりではありません。普段の業務を細分化して小さな仕事を切り出したり、地域の人材と連携することで出来ることは何か?という発想で、事業者と共に案件を創り出してきました。こうした仕事づくりの背景には「チームではたらく」をコンセプトに持続可能な仕事の仕方を生み出してきたPolarisの経験や、地域イノベーションとして、地域で仕事を創出する支援をしてきた経験が生かされています。
実際にR60-SETAGAYA-で、趣味を活かすことのできる農園アドバイザーや衣類の修復の仕事、専門知識を活かした講師の仕事などを仕事として生み出してきました
ミドルシニアと事業者双方の希望に沿ったマッチングを実現するため、Polarisでは働きたいミドルシニアに向けたセミナーに特に力を入れてきました。その背景には、ミドルシニアが自分で仕事探しをすることの難しさや、事業者の柔軟な働き方に対する理解不足があります。そこでセミナーでは、時代や社会の変化に伴う新しい働き方を紹介すると共に、過去の経験やスキルを棚卸しするワークショップを行いました。とりわけワークショップは、これまでの職務経験にとらわれず、趣味を含めた経験や個性にも着目し、自分を捉え直す機会として、高い評価をいただきました。
参加者の声
・今後のライフプランを考えるにあたって新しい視点があることに気づいた。
・発想をふくらませることができた。
・地域に根ざすという視点が新鮮だった。
・仕事以外の能力の可能性を知った。
・自己の経験を客観視できた。
新しい働き方にチャレンジしてみたいものの、ミスマッチは避けたいものです。「いまさら残念な経験をしたくない」という気持ちも出てきます。そこで、R60-SETAGAYA-に興味を持つ人へ地域での新しい働き方を伝えるため、noteを活用して具体事例を発信しました。記事には、事業者インタビューの動画を掲載し、事業者のリアルな声を届けるよう努めました。こうした発信は、現場の様子や事業者の思いを伝える場として、事業者とのより良い関係性構築に寄与しました。
関連リンク:note:ミドルシニアからの働き方をRe:DESIGNする「R60‐SETAGAYA-」
健康寿命が高くなり、ミドルシニアが地域で自分らしく生き生きと働くことへのニーズは、今後ますます高まっていくと考えられます。Polarisでは今後も、本事業での経験を活かし、誰もが望む自分らしい働き方を選択できる社会の実現に貢献していきます。
関連する記事
【参加レポート】「湘南セカンドキャリア地域起業セミナー」に市川望美が登壇―WhyMe?スキルと経験の棚卸しワークショップ
Polarisが運営するコワーキングスペース co-ba CHOFU にて、調布駅前でねぶくろシネマを開催するパッチワークスと共同で、”調布交流会”を開催します。
調布に住んでいてもなかなか地域の知り合いが増えません。
でも一度繋がってみると、知っている人のお店、イベントがあるというだけで、街の見え方が変わってきます。
皆さんの調布での暮らしがちょっと面白く、豊かになるかも!?
調布が好きな方ならどなたでもご参加ください。
準備をなるべく減らしラフに開催するために、お酒やおつまみは全て持ち寄りです。
お気軽にお立ち寄りください。(事前申込制)
日時:2024年5月15日(水)19:00〜21:00
場所:co-ba CHOFU
調布市小島町2-51-2 寿ビル2階
京王線「調布駅」徒歩1分
参加費:500円
飲食:持ち寄り(ご自身の分+αお持ちください)
対象:調布が好きな方ならどなたでも。
申込:peatixより事前に申し込みください
※勧誘やセールス目的はお断りします。
合同会社パッチワークス
デザイン&コンテンツ制作を通じて、「まちをリデザインする」ライフスタイルデザインカンパニー。
地域と繋がりながら問題と魅力を抽出し、「ヒト・コト・モノ・バ」の魅力を再編集。
新たな観点で「まち」の価値を創造し、「このまちで過ごす事が面白い」と思えるライフスタイルを提供しています。
co-ba CHOFU
「仕事軸のコミュニティ」をコンセプトとした、会員制コワーキングスペース。利用者同士が近くにいながらも、視線と視線をずらすワークテーブルの配置で、対話もしやすい空間を提供します。「働きすぎないゆとり」を生み出し、人とのつながりなど、今だからこその価値につなげていきます。”co-ba CHOFUを通して、豊かにくらし はたらくことができる。”そんな場を目指しています。
非営利型株式会社Polaris
co-ba CHOFU運営会社。co-ba CHOFU内に事務所をおき、「未来におけるあたりまえのはたらきかたをつくる」をミッションに、ワーキングシェアの仕組みをつくり、地域に仕事をつくってきました。学びのコミュニティ「自由七科」では、「ここちよく暮らしはたらく」をテーマとした学びや対話の場を開催しています。
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高度経済成長期に建設された大型団地の建て替えによって誕生した大規模分譲マンション「Brillia City 石神井公園 ATLAS」(東京都練馬区)内に、Polarisが参加型コミュニティスペース「アンドエス」を開設しました。
アンドエスのオープンを記念し、アンドエスを設計した建築家・武田清明さんや、医療・介護と地域との連携を進める理学療法士・糟谷明範さんらが語り合うイベント「100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ」を1月13日にアンドエスで開催しました。
登壇者や参加した住民から、新たなコミュニティスペースへの期待や開かれたコミュニティづくりなどについて、さまざまな意見が出されました。
100年続くコミュニティをめざして―石神井で暮らす、持続可能なコミュニティ
日時:2024年1月13日(土)13:00~20:00
場所:アンドエス(東京都練馬区上石神井、Brillia City 石神井公園 ATLAS内)
内容:関係者内覧会、トークイベント、歓談タイム
主催:非営利型株式会社Polaris
協力:株式会社パンフォーユー
参加者:マンション居住者、近隣住民、アンドエス・Polaris関係者ら約40名
建て替え前の石神井公園団地(旧団地)が完成したのは1967年。東京ドームとほぼ同じ約42,000平方メートルの敷地内に、鉄筋コンクリート造地上5階建の建物が9棟、490戸の住戸がありました。建設から時間がたち、建物・設備の老朽化と住民の高齢化が進んでいました。
旧団地の管理組合が2007年に建替・修繕検討委員会を設置し、旧団地の再生について勉強と検討を重ねました。その結果、2019年に一括建替え決議が可決され、練馬区初となるマンション建替円滑化法による建替えが決まりました。
新たにできたBrillia City 石神井公園 ATLASの総戸数は844戸で、この約3分の1が旧団地から引き続き居住する世帯です。建て替え・新築にあたっては、旧団地のコミュニティを承継しながら新たなコミュニティを形成するという方針が採られ、旧団地から樹木も移植されました。
同マンションを拠点としたコミュニティづくりを進めるため、事業協力者として建設事業に関わった東京建物(株)、旭化成不動産レジデンス(株)、(株)URリンケージの3社が2021年1月、建設中のマンションの特徴を紹介するゲストサロンに併設する形でコミュニティ醸成拠点「Shakuji-ii BASE」(シャクジイイベース)をオープン。Polarisが運営を担ってきました。そして2024年1月、マンション完成に合わせ、Shakuji-ii BASEで育まれたつながりや取り組みを生かし、Polarisとしてアンドエスを開設しました。
コンセプト:「私の暮らしの続きの場」
家でもなく、会社のようなオフィシャルな部分とは違う、少し間のような場所で、新しい自分らしさを出せるような場所に、という思いが込められています。エスは、石神井の「S」をはじめ、サスティナビリティ、センス、シンプルなど、利用者がいろんな「S」を持ち寄って、過ごしてもらいたいとの期待から命名されました。
主な機能:
トークイベントでは、建築家・武田さん、医療・介護と地域との連携を進める糟谷さんに、同マンションでのコミュニティづくりに関わってきたPolarisの野澤恵美も加わって、話しを進めました。
トピックス
・地域の人がつないだいくつもの縁
・石神井から考えるコミュニティ
・小さな「コト」を生み続けていくこと
野澤:石神井のプロジェクトに関わるようになって約3年がたちます。コロナ禍だったので、初めに建替組合の理事さんたちとzoomでオンライン形式の会議からスタートしました。コミュニティづくりの提案をしましたが、先は見えない状態でした。ただ、そういう中でも、「石神井でおもしろいことをしている人がいるよ」と、地域でさまざまな活動をする人たちを紹介いただきました。
武田さんにアンドエスを設計していただいたのも、そうした縁です。アンドエスの設計をどなたに依頼するか考えているときに、武田さんの「自然と建築」という考え方を紹介するホームページを見ました。事務所が石神井公園のほとりにあり、依頼したいなと思いつつも、敷居が高そうで無理だろうと話していたのです。ところが地域の人がつないでくれるということになり、「お話しだけでも」とお伝えしたら、二つ返事で引き受けていただくことに!思いがけない喜びと共に始まりました。
武田:お話しをいただいたのは、石神井に来てまだ2年というときでした。子どもも地元の学校に通っていて、地元のプロジェクトに関われるのはすごく幸せだなぁと思いました。
例えば、子どもたちが学校の帰りにマンガを読みに来たりできる場所があるって、すごく幸せなことですよね。上にマンションがあって、たくさんの方が住んでいるということは、同じような状況の方もたくさんいるわけです。そうした方が日常の幸せを感じられるような場所を設計するというのは、すごく大事なことだと思いましたね。
野澤:糟谷さんのことは、Polarisで仕事をしているメンバーから5年ほど前から聞いていました。京王線の多磨霊園駅(東京都府中市)の最寄りに、介護職の方が地域との関わりをつくろうとして運営しているカフェがあるということでした。
ハードを見ている武田さんと、ソフトを見ている糟谷さんと、アンドエスでコミュニティについて一緒に話ができたらいいなと思い、今日、来ていただいています。
糟谷:理学療法士というリハビリの専門職です。今は会社を作って、訪問看護ステーションという看護師がご自宅にいってケアする事務所と、ケアマネージャーという介護保険を使う時にプランを立てる事務所と、カフェを運営しています。
カフェの隣に築40年くらいのアパートがあり、カフェをつくる際に8~9部屋、空いていたんですね。医療が地域と関わるにはどうしたらいいかという問いに対する一つの取り組みとして、小学生が集まる場や、大学生が運営する中高生の学びの場、アトリエなどを空いていた部屋で始めました。
野澤:このマンションには、高齢の方や単身世帯の方もいます。すると、隣近所の近しい他人というのは貴重な存在になってくると思います。
糟谷:普段、地域と医療についての取り組みをしていますが、医療というのは、身近だけれど身近でないというところがあります。病院や医者という場所に対して、みんな、行けば何とかしてくれるんじゃないかと思っています。そんな中で、学校も公共施設も公的な機関も、いろんなところが外に開けてきているのに、実は病院だけが開いていないので、中身が分からない。
実際に医療にかかってみると、期待したことのほんの少ししか対応してもらえない、というようなことがあります。でも、病院でなくともできることはあるんです。そこは医療だけでなく地域の人や家の近い人たちなどがフォローすればいい。そうすれば、助かる命はもっとあるんじゃないか、もっと楽しく幸せに暮らせる人たちが出てくるんじゃないかなと思って地域の場づくりをやっています。
武田:「病院はいらない」という考えを持っている先生がいらして、高齢の方が最後、どこか分からない白い箱(病院)で亡くなるよりは、愛着のある家で最後を過ごせる社会、そうした仕組みをつくろうとしています。
その先生によると、夫婦で住んでいると、最後はだいたい男性の方が短くて、女性だけが残るのだそうです。そうなると1人になった瞬間に会話がなくなって、痴ほうになってしまうことがあるそうです。
医療と介護はグラデーションになっているのですが、その介護の手前で、何か開いている場所があれば、会話もできて、寿命も延びていくのでは、と思います。
糟谷:そういう場があった方がいいんじゃないかと確かに思います。しかし、実は人生はそんなに簡単ではないので、選択肢でいいと思うんです。
家で死ななくてもいいと思うんです。「家で死にたい」という選択ができるかということが大事だと思うんです。そのもっと手前で、人と話すことで自分がどう死んでいくかが言えるコミュニティや場を作りたいというのがこれまでの取り組みです。
ところが、そういう意図でつくっているコミュニティに、実際に想定通りに人が集まらないんです。カフェに高齢の方も来るかと思っていたんですけど、そうはならなかった。「入りにくいよね」という声も聞かれます。コミュニティが濃くて、あんまり開いていなかったんではないかと僕は思っています。ですから、全然知らない人を外から呼んでくるという活動を積極的にやっています。
野澤:ここのマンションは、駅近というわけではないので、最初は何をしたらいいか、何かやったところで人が来るのかと心配をしていました。でも実際には思った以上立ち寄ってくれる人が多いんです。隣にミニスーパーがあるので、ついでに気に掛けてくれる方はすごく多いです。マンション内の絵画教室に通う人がふらっと寄られたり、きっかけは多様で、マンションに住んでいる人以外もいらっしゃいます。
武田:1階がアンドエスのようになっているマンションが、増えるといいですよね。マンションって、間取りが似ています。でも住んでいる方は単身だったり、家族が多かったりします。家族だとライフスタイルもそれぞれで、みんな違います。そうすると、どうしても空間とライフスタイルが合わないことが出てくる。そのとき、こういう場所がバッファー(余裕、緩衝)になります。
一人で過ごすことが多い方なら、こういうところに来ると気持ちが温かくなるとか、ここで水ようかんづくりのワークショップがあれば、その中で役割を見つけるとか。子どもなら、お父さんやお母さんが帰ってくるのが遅いときや受験勉強に使うとか。マンションの“離れ”みたいな感じで使っていただくこともできます。
建築家というのは、その空間の中でライフスタイルを完結させなくちゃいけないと考えるのですが、逆に取りこぼしがあった方が、補いたい人がまちのようにこういう空間に集まってきて、新しいコンテンツをつくったりする。そう考えると、設計図もいらないかもしれないですね(笑)。
糟谷:取りこぼしながら、委ねる、ですかね。箱は作って、その後は住んでいる人に遊んでもらう、という感じ。
武田:実際、勉強したいと思ったら、スタバでやったりしていますよね。日頃、家の中で完結しているかというと、意外と外で生活しています。ですから、こういう住まい方もありなのかなと思いますね。
武田:持続可能なコミュニティにつながる話だと思いますが、物事がずっと動いていてコミュニティが新鮮さを保っている状態――その新鮮さが大事だと思っています。例えば、リーダーみたいな人が一人いて、全部を仕切っていくと新鮮さがなくなってしまいます。また、コミュニティの目的を決めてしまうと持続可能にならないのですよね。
逆に、もっと小さい主体性をかき集めたら、すごく風通しのいい、ずっと動き続けるコミュニティが生まれるんじゃないでしょうか。そうすると、コミュニティがどんどん多様になってくるんじゃないかと思っています。
例えば、今回設置した「ひと棚書店」なら、小さなコミュニティをいくつもつくることができます。
発信するのが苦手な料理教室の先生がいるとしたら、Webサイト作って毎日更新するのはできなくても、棚1個分の発信にすると、ハードルがすごく下がります。アーユルヴェーダ(インド・スリランカの伝統医療)が好きな料理研究家がいたとして、チラシの横にそういう本を並べて、「毎週土曜日にやっています」と案内すれば、「こういうの好きなんだ」というのが分かります。
「棚一面埋めてください」と募集したら、結構ハードルは高いですが、一棚ごとであれば多様性が生まれてくるのではと思います。
糟谷:閉じているコミュニティであったとしても、自分たちのコミュニティは何が目的なのかが言えて、「自分のコミュニティは閉じています」と言えたらいいんだと思います。そして、その中の誰かが、ほかの閉じているコミュニティと接点を持つようになると、コミュニティが溶けていくのではないでしょうか。
コミュニティというと、キラキラ楽しくなきゃいけないという考え方があったりします。そういうコミュニティもいいと思うんですが、死にたいとか、逃げたいとか、恥ずかしいいとか、嫌いとかということと、楽しい、うれしい、幸せということをどう共存できるか、そういう場をいかにつくれるかにチャレンジしたいですね。
野澤:そもそも理事さんたちの「今までのコミュニティを守りたい」ではなく、「今までのコミュニティを混ぜながら新しい人たちに入ってきてほしい、新しい発想を持ってきてほしい」という想いが、アンドエスが生まれた理由でもあります。今日この場にも多くの地域の方がいらしていて、石神井の今と昔について、意見をいただくこともできました。本当に石神井を愛する皆さんの熱意があったからできたのだと実感しています。
糟谷:コミュニティは本当に難しいと言われています。人の暮らしは変わりますし、食べたいものも日々、変わる。だから、作る方も、受け取る方も、答えを出さないことがいいかなと思っています。自分の正しさを押し付けない方が持続可能ではないかな、と。そうすると、閉じることもあるし、また復活することもある。外から来る人もいて、ぐちゃぐちゃになって、また固まって、いくつか分裂して、みたいなのができてくるといいと思っています。
武田:今日はいろんなヒントをいただきました。Polarisさんがこれをどう育んでいくのか、本当に白いキャンバスから今、始まっていると思います。
ある日は、ふらっと入ってきためちゃめちゃセンスの若い人がDJやっていて、いいなと思って次の日に来たら、加山雄三が流れているとか。
祭りまではいかないけど、家ではない環境で、そこで子どもとおじいちゃんが囲碁をしているみたいな状況ができると、すごい豊かな日常ですよね。そういう場所になってくれることを期待しています。
武田 清明氏 たけだ きよあき
(建築家/武田清明建築設計事務所)
1982年生まれ。2007年イーストロンドン大学大学院修了。2008年より隈研吾建築都市設計事務所勤務、2018年同事務所設計室長。2019年武田清明建築設計事務所設立。SDレビュー2018鹿島賞を受賞。2020年グッドデザイン賞受賞、2022年住宅建築賞受賞、日本建築学会作品選集新人賞受賞。千葉工業大学(2020年~)・日本女子大学(2021年~)・神奈川大学(2023年~)にて非常勤講師。武田清明建築設計事務所
糟谷 明範氏 かすや あきのり
(理学療法士/株式会社シンクハピネス代表取締役)
東京都出身。2006年に理学療法士免許取得。総合病院、訪問看護ステーション勤務を経て、2014年に株式会社シンクハピネスを創業。「“いま“のしあわせをつくる」をビジョンに東京都府中市で活動している。LIC訪問看護リハビリステーション(訪問看護)、lifedesign village FLAT(居宅介護支援)、the town standFLAT(カフェ&コミュニティ)という3つの事業を行いながら、さまざまな立場の人たちが集まり、そこで起こるコトをつくる「たまれ」を運営している。2022年立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。株式会社シンクハピネス
関連ページ
【Polarisの多様なはたらき方】
「Brillia City西早稲田」入居後の居住者中心コミュニティづくりをサポート
「心地よく暮らし、心地よくはたらく」をビジョンに掲げ、そのための仕組みづくりに取り組んできたPolaris。共に働く人の心地よさを大切にしてきました。一方、企業としてクライアントや社会に対し、事業価値を提供していくこともまた重要です。多様な個人の心地よさと組織として事業を推進すること。この2つを両立するために活用しているのが“こころえ”です。今日はこの“こころえ”についてご紹介します。
【INDEX】
・時間や場所に縛られず、チームで働くのがPolaris
・一人ひとりの拠りどころとなり、業務の質を担保する
・組織のここちよさを主体的につくる
・個人と組織に浸透させる振り返り
・“こころえ”の存在が個人と組織を繋ぐ
“こころえ”について書く前に、少しPolarisでの働き方について触れておきたいと思います。Polarisには、コミュニティ運営やバックオフィスサポート等の伴走支援など、様々な事業があります。どの事業でも共通しているのは、チームで仕事を請け負うこと。小さな業務でも複数人で担当する仕組みをつくっています。また、一部の業務を除き、メンバーの多くは好きな場所で、都合のつきやすい時間帯に働いています。役員以外は業務委託契約で働いていることも特徴です。
働く時間も場所もバラバラなメンバーがチームを組んで、クライアントに高品質なサービスを提供するためには、拠りどころとなるものが必要でした。それが“こころえ”です。
それでは、“こころえ”について具体的に見ていきましょう。シェアオフィスのコミュニティマネージャーの“こころえ”の一部をご紹介します。
・Polarisではたらく上でのこころがけ
-地域に愛着を持ち、自分自身も日々の暮らしや仕事を大切にしている。
-業務上知り得た情報や個人情報などの機密が保持できる。
・チームづくり
-他のスタッフやイベント運営者、関連事業者と良好な関係をつくる。
-立場を越えて対等であることを心がけお互いを尊重する。
・関係づくり
―自分から明るく挨拶をし、話しかけやすい雰囲気をつくる。
―来場者同士がつながれるよう来場者同士の接点となる。
・業務の振り返り方
―何か課題があるとき個人の問題とせず、場として解決することを考える。
・学ぶ
―研修や日々の出会い、利用者とのやりとりの中で学ぶ。
一見当たり前のように感じることも多いですが、明文化しておくことに意味があります。言語化すると、業務に携わる全員で共有することができます。コミュニティマネージャーは1人で勤務にあたることがほとんど。可視化されていれば、担当者が毎日変わっても、その場らしさが失われずに運営されます。対応に悩んだ時に判断の拠りどころにするためにも、“こころえ”が必要です。
事業伴走支援サービス「CoHana」では、2023年に新たな“こころえ”づくりに取り組みました。作成したのは、事業の担当役員、および各業務チームのまとめ役であるディレクターとアシスタントディレクター。さらに、場の心理的安全性と客観性を担保するために、学び事業の担当者がファシリテーターとして参加しました。
はじめに、先述した項目ごとに業務で大切にしていることを出し合い、次に代表者がそれらの言葉を整理します。その後、全員に整理したものをフィードバックする、という繰り返しで“こころえ”は完成しました。
そして今回、ディレクター・アシスタントディレクターがチームとして機能するための“こころえ”が、ディレクター・アシスタントディレクター自身からの提案で新設されました。これらの役割は、クライアントとの窓口でもあり、業務を担当するチームのリーダーでもあります。プレッシャーがかかりやすい立場だからこそ、自分たちもチームである必要があることを再認識したのです。
課題に向き合うときに、孤独にならないこと。
チームメンバーがここちよく働ける環境をつくると同時に、自分のここちよさも大切にすること。
“こころえ”には、メンバーのこうした思いが反映されました。
終了後の感想では、「チームを見る時は一人だが、拠りどころになるお守りのようなものができた」、「ディレクター、アシスタントディレクター自身が一つのチームであることを実感できた」という声が聞かれました。このことから、“こころえ”の作成プロセス自体に、その組織ではたらくここちよさを醸成する効果があると考えられます。
“こころえ”の活用シーンの1つとして、新人研修があります。新しく入ったメンバーに“こころえ”を理解してもらうことは大切です。しかし、Polarisが期待しているのは、むしろ前からいるメンバーへの“こころえ”の定着化です。
コミュニティマネージャーの新人研修では、前からいるメンバーから新メンバーに“こころえ”を説明するようにしています。すると教える側は、新メンバーに伝えることで、自然と自分自身の行動を振り返るようになります。“こころえ”は頭では理解できても、実践するのは難しいもの。このように振り返りの機会を設けながら、少しずつ自分の身になり、行動できるようになるのです。
そのほか、業務に課題を感じる際には、“こころえ”に立ち戻り、チームで話し合いをしています。その課題は“こころえ”のどこに齟齬が生じているのか。それはなぜなのか。チームでどのように対応すればよいか。“こころえ”を起点にして話すことで、個人を責めるのではなく、チームの課題として扱うことが出来るのです。
Polarisの“こころえ”と、事例についていくつか見てきました。業務委託で働くメンバーが、主体的にこころえに関わる仕事の仕方を珍しく感じられたかもしれません。業務委託とは業務委託契約書により取り決められた業務を行う仕事の仕方です。納期までに成果物が納められれば契約上の問題はありません。
しかしPolarisでは、「ここちよく暮らし、はたらく」ことをビジョンに掲げ、Polarisならではの業務委託のあり方を追求してきました。それは、一人ひとりが自分の望むはたらき方を選択できる組織づくりに繋がります。さらに企業としては、自分らしく働く個人をチームとして組織し、社会的価値を発揮していくことが求められます。この2つを両立するために、欠かせないのが“こころえ”なのです。
近年、企業を取り巻く環境はますます不確実になり、変化のスピードも速くなるばかりです。働き方も大きく変わるなか、どの企業にとっても、“こころえ”のように個人と組織を繋ぐ仕組みが必要となるのかもしれません。
【Polarisの「仕事のしかた」とは?】
・Polarisの「仕事のしかた」とは?
・業務委託ではたらく!
・業務改善クラウドツール、「kintone」で在宅ワークを効率化!
その土地・地域に暮らす人たちの「くうき感」を伝える仕事『くらしのくうき』。
川崎市麻生区 新百合ヶ丘エリアに新しくできる分譲マンションの購入を検討している方に、新百合ヶ丘エリアの地域の暮らしの情報をオンライン(Zoom)で伝えるお仕事をしてくれる方を募集します。
新百合ヶ丘エリアに実際に暮らす人の視点で、お店や公園、病院や公共施設など、新百合ヶ丘エリアへのお引越しを検討している方が気になる地域の情報について、ご自身の経験や現在の暮らしの様子をお伝えしていただくお仕事です。
まずは新百合ヶ丘エリアの地域情報についての座談会を開催します。地域についてのあれこれを、リラックスした雰囲気の中、参加者みなさんで楽しくお話しいただきます。
座談会の中で、お仕事についての説明もしますので、ご興味ある方はお気軽にご応募ください。お仕事をするかどうかは座談会参加後に決めていただいて大丈夫です。
ご応募をお待ちしています。
職 種:在宅オンライン業務 地域情報コンシェルジュメンバー
※自分が住んでいる街の暮らし方や街の情報をオンライン(Zoom)で伝えるサービスです。
実施期間:4月半ば~7月上旬予定
実 施 日:土曜、日曜、祝日のいずれか。1か月に3回程度。1回1時間程度。
勤 務 地:自宅
報 酬:1回あたり2,000円、月1回ミーティング(1時間程度、オンライン)1,500円
募集人数:5人 ※月6回の勤務を2名体制、シフト制で実施
契約形態:非営利型株式会社Polarisとの業務委託契約
地域情報相談会事前研修/運営ミーティング/地域情報相談会の実施
【よくあるご質問】
Q.家族が在宅している中でのお仕事に不安があります…
A.背景のスライドを用意しますのでお部屋内の様子は映りません。また、お客様とのお話の妨げにならなければ多少の生活音(お子さんの声含む)やご家族の写り込みは問題ありません。
Q.スマホやタブレットでも良いですか?パソコンでないとダメですか?
A.できればパソコンが望ましいですが、難しい場合にはスマホやタブレットでも可能です。
Q.初対面の方とZoomでうまくお話できるか心配です。
A.Polarisスタッフがリラックスした雰囲気で楽しくお話できるように進行しますのでご安心ください。
日時:3月20日(祝)10時〜11時30分
(ご都合が悪い場合には日程調整の上、業務説明会のみ実施しますのでそちらにご参加ください。)
場所:オンライン(Zoom)開催。ご自宅などからご参加いただけます。
(お子さんと一緒でのご参加もOKです)
謝礼:Amazonギフト券2000円分(業務説明会のみのご参加の場合には謝礼はありません)
説明会に参加後、業務へのエントリーという流れになります。
オンライン(Zoom)で実施。日程は3月下旬~4月上旬で調整します。所要時間いずれも2時間程度、研修も報酬(1回あたり3000円)が出ます。
研修1: 地域情報の伝え方について/業務上のこころえ/コンプライアンスについて
研修2: Zoomの機能について/ロールプレイ
2024年4月中旬
下記リンクよりフォームに入力の上ご応募ください
【くらしのくうき新百合ヶ丘 ロコワーク事務局】
locowork-info@polaris-npc.com
(件名に「くらしのくうき新百合ヶ丘 メンバー募集」と記載の上、ご連絡をお願いいたします)
team-pono説明会を3/12(火)に実施いたします。
Polaris の事業の一つである「事業伴走支援サービスCoHana(コハナ)」には「team-pono(チームポノ)」という短期、長期、単発業務やトライアル業務の立ち上げを担当するチームがあります。
「team-pono」では、どんな小さな案件でも複数名でチームを組むことによって、メンバーそれぞれの得意を活かしたり苦手を補いあいながら業務を遂行します。
その結果、チーム全体のパフォーマンスや納品物のクオリティを高めることに繋がっています。
また「team-pono」でのトライアル業務がきっかけで継続案件につながり、長期で関わるメンバーも多くいます。
CoHana の事業やteam-pono についてはこちらもご覧ください。
・事業伴走支援サービスCoHana
・CoHana ではたらく
という方はぜひ《team-pono 説明会》にご参加ください!
日時:2024年3月12日(火)10:00~12:00
開催方法:オンライン(Zoom)にて
定員:10名程度
以下の説明会エントリーフォームよりお申込みください。
申込締切り:2024年3月4日(月)12時(正午)
お問い合わせ:CoHana ロコワーク事務局
「リスキリング」という言葉を見聞きする機会が増えてきました。「リスキリング」は、「再び」を表す「re」と「能力」の意味の「skill(スキル)」の進行形が組み合わされた言葉で、「再教育」や「新たな能力(スキル)」の獲得を意味しています。
リスキリングの意味するところ、注目される背景、リスキリングで何が変わっていくのか紹介します。
経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」の委員も務めた(株)リクルート・リクルートワークス研究所の石原直子さんは、同検討会の資料の中で、以下のようなリスキリングの定義を紹介しています。
リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
出典:「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
第2回「デジタル時代の人材政策に関する検討会」資料
この資料の中で石原さんは、デジタル化が進むことによって、新たなスキルの習得(リスキリング)を考える人が増えているとして、次のような説明もしています。
近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている
出典:「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
第2回「デジタル時代の人材政策に関する検討会」資料
単に新しいスキルを習得するのではなく、デジタル化、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める、対応するという意味合いで使われることが多いのが、最近のリスキリングに関する重要なポイントの1つです。
それでは、どのようなきっかけでリスキリングが注目を集めるようになったのか、世界的なきっかけと、日本でのきっかけを確認しましょう。
世界的にリスキリングに注目が集まるきっかけの一つが、世界を代表する企業のトップや政治家、市民社会のリーダー、研究者らが集まる世界経済フォーラムの年次総会(通称:ダボス会議)で、「リスキル革命」をテーマにしたセッションが行われるようになったことと言われています。
ダボス会議が「リスキル革命」に関するセッションを始めたのは、2018年1月の会議。2020年のダボス会議では、2030年までによりよい教育、スキル、仕事を10億人に提供することを目指す取り組み「リスキル革命」イニシアチブが発表されました。
日本国内で関心が高まったのは、2022年秋。この年の10月、岸田文雄首相が今後の政策や重点課題を説明する国会の所信表明演説の中で、「個人のリスキリングに対する公的支援として、5年間で1兆円を投じる」と明らかにしたことでした。
また、リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年六月までに取りまとめます。特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、「五年間で一兆円」のパッケージに拡充します。
出典:首相官邸ウェブサイト 第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信 表明演説
具体的に、リスキリングとはどのようなことを目指し、どのように進められるものなのか。デジタル分野の変化に対応した象徴的な例を見てみましょう。
リスキリングの先駆け的な取り組みで、「米国企業史上最も野心的」と言われているのが、電話をはじめとする通信事業の大手で、ワーナーメディアを傘下に持つAT&Tの実践です。
従来の同社の収益の柱はハードウェア分野でしたが、スマートフォンの利用拡大や通信の高速化を受け、ハードウェア分野の収益の大半をソフトウェア分野の置き換えることを決断します。そのために行った社内調査の結果は、衝撃的なものでした。
「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎず、約10万人は10年後には存在しないであろうハードウェア関連の仕事のスキルしか持っていない」
出典:「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
第2回「デジタル時代の人材政策に関する検討会」資料
同社は、2013年に「ワークフォース2020」というリスキリングのイニシアティブをスタートし、2020年までに10億ドルをかけて10万人のリスキリングを実行。社内技術職の80%以上が社内異動によって充足されるようになり、経営や事業の転換に成功したのです。
リスキリングは元々、社内の人材が新しいスキルを身に付け、それにより会社が新たな分野の取り組みを拡大するというものでした。しかし、日本では、スキルアップによる転職もリスキリングとして考えられているような部分もあります。
リスキリングの言葉が今ほど注目される前の2018年から開設されているのが、「第4次産業革命スキル習得講座」(通称:Reスキル講座)です。
当初は、クラウドやIoT、AI、セキュリティ、ネットワークなどの講座が対象となり、2023年10月からはDXに関する講座が追加されます。
対象分野
出典:経済産業省「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)認定制度~制度説明資料~」
①IT分野
-新技術・システム:クラウド、IoT、AI、データサイエンス(デザイン思考、アジャイル開発等の新たな開発手法との組み合わせを含む)
-高度技術:セキュリティ、ネットワーク
-デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に関する知識及び技術:ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ※2023年10月より追加
②IT利活用分野
-自動車モデルベース開発、自動運転、生産システム設計
経産省の認定を受けた「Reスキル講座」を、企業が人材育成のために従業員に受講させた場合、「人材開発支援助成金」の助成対象となります。最大で75%の経費助成、1人1時間あたり960円の賃金助成があります。
Reスキル講座のうち厚生労働省が定める一定の基準を満たし、厚生労働大臣の指定を受けた講座について、労働者等が受講・修了した場合に、最大で受講費用の70%(上限年間56万円)が支給されます。
経済産業省は2020年度からは、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を展開しています。
同事業のウェブサイトのトップページには、「新しいスキルで、新しいチャンスを」というキャッチフレーズがあり、「転職をご検討の方」のページに進むと、こんな見出しがあります。
出典:経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 ウェブサイト
- 「キャリア相談」「リスキリング」「転職」までを一体的に支援
- 転職を実現し、継続就業すれば、最大56万円の補助
この事業では、在職者が、この事業に参画する事業者(事業への参画が採択された事業者)が提供するリスキリング講座を受けると、受講費用の1/2相当額(最大40万円)が事業者に補助され、受講者は補助分が軽減された価格で講座を受講することができます。
事業が提供する講座には、ウェブデザインやプログラミング、データサイエンス、CADなどのほか、起業や介護に関するものもあります。
リスキリング講座を受講して実際に転職し、その後、1年間就業が続くと、当初の補助に加えて、受講費用の1/5が追加で補助されます。転職が前提のリスキリング支援の制度ということがわかります。
経済産業省は、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の説明資料の中で、この事業を進める背景として、「物価高克服」と「経済再生の実現」をあげています。具体的には、以下のような説明をしています。
「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」(令和4年10月28日閣議決定)(抄)
出典:経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について」
第1章
経済の現状認識と経済対策の基本的考え方
(構造的な賃上げ)
目下の物価上昇に対する最大の処方箋は、物価上昇を十分にカバーする継続的な賃上げを実現することである。
(中略)
賃上げの流れを継続・拡大していくため、賃上げが高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、それが更なる賃上げを生むという「構造的な賃上げ」を実現する。物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、賃上げ、労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題の一体的改革を進めていく。
第2章
経済再生に向けた具体的施策
III「新しい資本主義」の加速
1.「人への投資」の抜本強化と成長分野への労働移動:構造的賃上げに向けた一体改革
デジタル分野等の新たなスキルの獲得と成長分野への円滑な労働移動を同時に進める観点から、3年間に4,000億円規模で実施している「人への投資」の施策パッケージを5年間で1兆円へ拡充する。
在職者のキャリアアップのための転職支援として、民間専門家に相談して、リスキリング・転職までを一気通貫で支援する制度を新設する。
経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の説明資料では、日本では他の国と比べ、「学び直しを行っていない人の割合が高い」などとして、関連の調査の結果を紹介しています。
出典:経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について」
また、経済産業省の未来人材会議で提出された同省の「関連データ・政策集」には、「日本企業のOJT以外の人材投資(GDP比)は、諸外国と比較して最も低く、低下傾向」だとして、以下のような調査結果も掲載されています。
出典:経済産業省「関連データ・政策集」(第5回未来人材会議資料)
仕事で求められる知識やスキルを、時代の変化に合わせて「学び直す」という取り組みでは「リカレント教育」もあります。リスキリングとリカレント教育は何が違うのでしょうか。
リカレント教育について、政府は、次のような説明をしています。
リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
出典:政府広報オンライン「『学び』に遅すぎはない!社会人の学び直し『リカレント教育』」
リクルート・リクルートワークス研究所の石原さんは、経産省の検討会の資料で、「リスキリングは、リカレント教育ではない」と明確に断言しています。
リスキリングは「リカレント教育」ではない
出典:「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けるありようのこと。新しいことを学ぶために「職を離れる」ことが前提になっている
第2回「デジタル時代の人材政策に関する検討会」資料
リスキリングは職を継続したまま、時代に合わせたスキルを学び直し、仕事に活用していくことと言えそうです。
岸田首相は、リスキリング支援の拡大をアピールした所信表明演説で、「年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行」も打ち出しています。岸田首相や政府が進めるリスキリングの定義については異論もありますが、この働き方の改革には賛同する意見が多いようです。
「日本の企業は人に投資せず、日本では個人も学ばない」という傾向も見える中、リスキリングが個人のスキルに対する評価を変えていくのでは、という指摘があります。
リスキリングに注目が集まることで、日本型の雇用や個人のスキルの評価が変化していくかも知れません。
Polarisのミッションは、「社会の文脈を変え、『未来におけるあたりまえのはたらきかた』をつくる」です。ビジョンは、「『心地よく暮らし、心地よくはたらく』」ことが選択できる社会へ」です。
人生100年時代の生き方(100年ライフ)のデザインや、ウェルビーイング/ウェルビーイング経営などについても提案するPolarisが考えるリスキルには、例えば、次のような要素があります。
1つは、暮らすことと、はたらくことを融合するためのスキルの獲得です。
これまでは、フルタイムではたらくことに制約のある人が、暮らしの中に“やむなく”仕事を持ち込むということがありました。
リスキルを通じて、暮らすこと・はたらくことが分断されない生き方を追求することから、「持続可能な暮らし方・はたらき方」のヒントが見つかるようにも感じます。
2つめは、チームやコミュニティ、まちのためのスキルという考え方です。
これまでのスキルには、社員が会社に提供する価値という側面が強く、この価値の大小が評価や出世につながってきたのではないでしょうか。
しかし、チームやコミュニティにとっては、すべての人が同様のスキルを持つ必要はありません。中に必要なスキルがあり、状況が変化したときにも新たなニーズに応えられるスキルがあること、あるいはそのスキルを持つ人が現れることが大切です。
新たに出現したスキル(リスキルで生み出されたスキル)は、新たなサービスを提供し、新たな仕事を生むこともあるでしょう。
3つめは、自分を見直し、学び直すことです。
自分のライフステージを振り返ることで、自分が持っているスキルを確認することができます。自分を見直す作業を他人と一緒に行うことで、自分が気づいていなかったスキルや可能性に気づくこともあります。新たな環境に飛び出すことで、新たな学びや発見も生まれるでしょう。
より深い学びのためには、技術的なことや断片的なことを接ぎ木するのではなく、土台を耕すことも大切です。Polarisでは、学び事業「自由七科」を展開し、その中で、「はたらく」を考える座談会なども開催しています。
リスキリングやリカレント教育が広がることは、多様で柔軟なはたらきかた・暮らし方のきっかけになります。Polarisとしても、この動きに注目しています。
※本記事は2024年2月7日時点の情報をもとに執筆されています。
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#1「非営利型株式会社とは」
#2「インキュベーションとは」
#3「コミュニティマネージャーとは」
#4「ソーシャルビジネスとは」
#5「ウェルビーイングとは」
今年最初のランチタイムセッションのテーマは「ケアとコミュニティ」。
業務委託のメンバーでチームをつくり、仕事をしてきた私たちPolaris。チームの関係はいつも対等でフラット。ディレクターやメンバーといった立場の違いは役割の違いと捉えてきました。
Polarisに雇用されているわけではなく、業務を通じて繋がっている私たちは、Polarisを「仕事軸のコミュニティ」と考えています。
Polarisで働くメンバーが共有している価値観は、「心地よさを軸に自分の暮らしや働き方を選択すること」。自分の心地よさだけでなく、他者の心地よさも尊重することを大切にしています。
一方、Polarisが事業を提供している価値もまた「コミュニティ」にあります。
シェアオフィスや地域のコミュニティスペースなど、様々な場所でコミュニティづくりのお手伝いをしてきました。
今回のランチタイムセッションでは、組織の内外でPolarisがつくってきたコミュニティの特徴はどこにあるのか、ケアという視点を通して考えます。誰もが心地よくいられるコミュニティのあり方を一緒に探索してみませんか?
参加メンバーは、山本弥和(Polaris取締役)、市川望美(Polarisファウンダー/取締役)、武石ちひろ(自由七科研究員)の3名。
ランチを食べながら、画面オフで聞くだけでもOK!ぜひ気軽にどうぞ。
日時:1月22日(月)12:00~12:50
オンライン開催
参加費:無料
定員:20名
非営利型株式会社Polaris(★令和元年度 東京都女性活躍推進大賞 地域部門大賞受賞)
学びのコミュニティ「自由七科(じゆうしちか)」
非営利型株式会社Polarisが運営する学びと探究の場。
変化の時代の中で多様な人とつながりながら、一人ひとりがここちよいと暮らしかたやはたらき方を実現するための対話の場をつくっています。
朝日新聞の運営するウェブサイト「telling」に市川望美のインタビューが掲載されました
柔軟な働き方を選べる社会を目指すPolaris市川望美さん。「シゴト軸のコミュニティ」も構築
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